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第44話
- 紘二side -
稑くんが泣いている…
目の前で、ずっと泣いてる…
ほぼ初めてというくらいの素直な表情は、僕の胸を酷く締め付けて痛ませた。
抱き締めて、これでもかって程甘やかしてあげたいけど、もうそれはできない。
僕が別れを告げて、稑くんがそれを受け入れた今、もうそれは許されない。
僕はその瞬間、自分の決断した事の大きさを初めて理解した。
もちろん、軽い気持ちで別れようと決めたわけじゃないけれど、稑くんと過ごしてきた時間は…
稑くんへの気持ちは、思ってた以上に長くて大きいものだった。
自分から切り出したくせに、そのダメージは深い。
自分で発した言葉は、何故か僕へと跳ね返り胸に突き刺さた。
それは、一生抜ける事がないだろうと思うくらい奥を抉った。
稑くんを泣かせて傷つけたのに、僕がこんな感情を持ったらいけない。
「うん、ありがとうね、稑くん…僕の気持ち、受け入れてくれてありがとうね…」
とにかく、僕が傷ついた事実は隠し通すしかない。
それが、切り出した人間の役目だと思う。
本当は心のどこかで少し期待していたのかもしれない。
稑くんが、僕の言葉に応じませんように…
いつもみたいに軽くあしらってくれますように…
そう思っていたのかもしれない。
こんな時に限って、素直になる稑くんは…
ズルい。
「受け入れるしか…ないだろ…紘二の意思は、固すぎる…」
「うん…」
固くなんてない。
今だって、こんなに揺れている。
だから、僕の意思なんて、稑くんの言葉一つでいくらでも変えられるのかもしれない。
「だから、受け入れるしかない…」
「うん…」
「おいて行くな…と言ったところで、いつもみたいに…聞き分けてくれないんだろ?…」
「うん…」
「はは、…さっきからそればかりだな…」
「うん…」
仕方ない。
言葉数を減らす事くらいでしか隠せない。
少しでも気を緩めたら、気持ちが溢れ出そうだ。
だから、仕方ない。
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