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第48話
- 稑side -
紘二は俺と入れ替わりで風呂に入った。
髪を拭きながら、ふと玄関に目をやると大きなトランクが置いてあった。
ただそれだけで、目頭が熱くなって、鼻の奥がツンとした。
紘二の前でも風呂でも散々泣いたクセに、俺はまだ泣き足らないらしい。
紘二はお互い様だと言った。
でも、結局全ては俺が招いた事だ。
紘二を信じられなかった…
愛されている自信がなかった…
だから、これはその結果だ。
「チョコちゃん…」
足元にすり寄ってくるチョコちゃんを抱き上げた。
暫くすると紘二が出てきた。
風呂上がりに紘二がパンツ一丁でウロウロしているのをよく叱っていたが、本当はそれが好きだった。
無防備な姿を見せてくれる事が嬉しかった。
心を許されているような気分になった。
でも今日は…
風呂から出てきた紘二は部屋着姿だった。
もう、紘二が俺に対して無防備で居る事はないんだと思う。
さっきまで恋人だった俺たちの関係は、友だちでも親友でもない…
もう俺たちは…
他人だ。
紘二はきっと明日、この部屋を出ていく…
玄関のトランクがそれを物語っていた。
「遅かったな。」
「いつも早いのに稑くんこそ遅かったじゃない?」
長風呂にもなる。
散々泣いて腫れた目と少し興奮した気持ちを冷やさないといけなかったし、なにより、きっと紘二は荷造りをしているのだと思うと出ていけなかった。
その姿を目にしたら、きっとまた俺は…
最後になるかもしれないのに泣き顔ばかり…
紘二が俺を思い出した時、泣き顔しか思い出せないなんて事は許せないから…
だから、もう紘二の前で泣きたくはなかった。
「そうか?気のせいだろ。」
「そうだね。多分、気のせいだね。」
そう言うと紘二はクスクス笑った。
なにが面白いのか俺には全く理解できなかったが、紘二が笑ってくれた事は素直に嬉しいと感じた。
その顔を見た俺も、自然と笑みが溢れた。
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