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第49話

特に会話をするわけでもなく、リビングで時間だけを共有した。 ただそこに居るだけ… それでも構わなかった。 居てくれるなら、形はなんだって構わなかった。 「…」 「ねぇ、稑くん…」 「ん?…」 「寝ようか…」 「…」 寝たくなんてない… でも、寝ようが寝まいが朝は来る… そんな事は分かってる… 「稑くん?…」 「あぁ…そうだな…」 俺たちは寝支度を済ませた。 洗面所の鏡の前に並んでいる二本の歯ブラシ… 明日には… 俺は、それを見なかった事にして寝室に向かった。 紘二はもうベッドに横になっていた。 あの日… こんな事ならあの日、乱暴にでもいいから抱かれていればよかった… 少し我慢して抱かれていたら… 紘二と別れずにすんだのかもしれない。 人はなぜ、未来を知る事ができないんだろうか… 人はなぜ、時間を戻す事ができないんだろうか… 人はなぜ… 過去と未来の狭間で転がされる事しかできないんだろうか… そんなくだらない事を考えながら紘二の隣のスペースに潜り込んだ。 「冷たッ…」 「あ、悪い。」 足先がツンッと紘二の肌に触れた。 わざとじゃない。 いや、わざとだ。 この期に及んで、俺はまだ… 俺は人を試す事しかできない… 多分、一生直らない… それ程までにひねてしまった。 「相変わらず、冷たいね。」 「…」 「靴下とか履いて寝たらいいんじゃないかな?あとは…寝る前に身体がポカポカするようなもの飲んだり。例えば、生姜紅茶とか…」 「前に…」 「ん?」 「まだ、…付き合ったばかりの頃に俺の足の冷たさにビビって飲ませてくれた事があったよな…」 「そうだね。懐かしいね…」 試したりするんじゃなかった。 虚しくなるだけだ… もう… 紘二の足が俺を温めてくれる事はない。 それを突き付けられただけだった。

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