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第50話
紘二は横向きのまま俺を見ない。
俺はその事実から逃げ出したくて、天井を見上げるばかりだった。
いつしかそれにも飽きて、俺も横向きになった。
背中合わせ…
こんなに虚しい事はない。
大切な人と同じベッドで寝ているのに、壁と天井しかない。
たまに触れる腕や背中が温かさを感じるだけだ。
ポカポカと優しい温かさじゃなく、チリチリと焼け付くような嫌な温かさ…
それでも背中は温かい…
このまま…
焼け焦げてしまいたい…
「ッ…」
馬鹿…
もう泣かないと決めたのに…
別に涙脆いわけじゃない。
ただ、苦しいだけだ。
結局、俺は一晩中グズった。
そんな俺に紘二は一度も声をかけてくれなかったし、あやしてもくれなかった。
いつ落ちたのか、気付いたら朝になっていた。
隣に紘二は…
いない…
俺は慌てて身体を起こした。
寝起きのせいか上手く走れず、足を縺れさせながら玄関へ急いだ。
昨日まであった筈のトランクはない…
そして、紘二の靴も…
ドアを開けて追うように紘二の背中を探した。
当然、無意味な行動だ。
散々泣いたのに涙は枯れる事がないらしい。
いくらでも泣ける…
さよならくらい言わせてほしかった…
顔を見たかった…
声を聞きたかった…
紘二…
紘二紘二紘二紘二…
俺は玄関にしゃがみ込んで泣いた。
静かになんて泣けなかった。
とにかく、恐竜の子どもみたいに大声で泣いた。
ひとしきり泣いた後、力なくリビングに向かった。
リビングのローテーブルには、いつものように朝食とメモが残っていた。
ーーー 稑くん、おはよう。起こさずに出てしまってごめんね。鍵はポストに落としていきます。いってきます。
紘二からの最後の手紙は、あまりにシンプルだった。
別れの言葉とかそういうのじゃなくて、そのうち帰ってきそうな、そんな内容だった。
いってきますって…
「期待するだろ…馬鹿…」
俺は多分、この手紙と呼ぶには少し雑で、どちらかと言えばメモに近いコレを捨てられないだろう。
未練がましく手元に置いて、ただいまと言って帰って来るのを待つんだと思う。
いってきます…
そんな言葉を残されたら、お帰りなさいと言いたくなる。
帰国の保証はない。
帰国したとして、俺のところに帰ってくる保証すらない。
だけど待つ。
紘二が帰国する、その日まで…
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