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第51話

- 8年後 - 紘二が居なくなって8年… 俺は34になった。 アラフォーに片足突っ込んだ年齢だ。 俺は律儀に紘二を待ち続けている。 引っ越す事もなく、チョコちゃんと一緒に… 最近、チョコちゃんは寝て過ごす事が増えてきた。 そして、相変わらず甘えん坊だ。 エサはたまにおやつをあげる事もあるが、紘二の言い付けを守っている。 それに、チョコちゃんの食べる量も減ってきている。 少し心配だけど、年寄りなりに元気でいてくれている。 俺はと言うと、病気の方は多少の違和感はあるが、食事を美味しいと感じるくらいには良くなってきている。 まだ薬は続けていて、医者にも通っているが、それも二ヶ月に一度まで減った。 店はあの場所のままだ。 ただ、柊さんが海外へ修行に行くと言い出して、オーナーも一緒に行く事になり、店は俺に任された。 つまりは、今の俺の身分は雇われオーナーという事になる。 流石にイタリアンレストランをパティシエの俺が切り盛りするのは難しい。 それを気にかけたオーナーが店を改装し、今はパティスリーに姿を変えた。 見習いが一人、アルバイトが二人。 アルバイトは学生で一日置きに来てもらっていて、店は実質三人で回している状態だ。 最近は雑誌に載った事により客が増えて、そろそろ増員も考えなければと頭を痛めている。 こんな時は、柊さんに渇を入れてもらいたくなる。 家に帰った時に紘二の笑顔に癒されたくなる。 紘二の代わりにチョコちゃんが癒してくれるけど、それはまた別の話だ。 「小林君。」 「はい。」 彼は見習いの小林刻 -こばやしとき- 君だ。 見習いとはいえ、彼は有名なショコラトリーで働いていた経験がある。 詳しくは聞いていないが、色々あって今はこの店で働いている、頼りになる存在だ。 「ちょっとホール手伝ってきてくれるか?混んでくる時間帯だから。」 「わかりました。」 ホールの様子はここからは見えないが大体の事は音で分かる。 「悪いな。」 「いえいえ。」 小林君は手を洗い、コックコートを脱ぐとホールへ向かった。 ボールに入れた牛乳と生クリームをまぜながら小林君の存在に感謝した。 小林君が居なかったらこうして専念もできない。 まだ若いのによくやってくれている。 本当に有難い。

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