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第58話

紘二の腕の中は温かくて、広くて… 安心する。 8年経った今も… 変わらずに… 紘二の肩口に埋めた顔を上げると目が合った。 紘二の瞳に写った俺が見える… 紘二が俺を見てる… 「紘二…」 「稑くん、待って。」 「え…」 「僕はね、稑くんに言わないといけない事があるんだ。」 「…」 不安でいっぱいになる。 海外で恋人ができたとか、結婚したとか、子どもが居るとか… そんな話だったら… 「稑くん…好き…愛してる。13年前から変わらずにずっと、愛してる…」 「…ッ……」 紘二の言葉に頷くばかりだった。 言葉が出てこない… 嬉しくて… 嬉しくて… でも、少し不安で… 「稑くんは?…まだ思ってくれていたら…キスして?…」 「嫌だ…」 「なぜ?…」 「紘二にも、拒否された時の気持ちを味あわせてやりたいから…」 俺はとことんひねてる。 紘二には素直でありたい。 「あれは、…キスなんかしたら、手放したくなくなるから…」 「手放さなければよかっただろ…」 「そうだね。…でもね、もしもあの時別れなかったら多分僕たちはダメになってたと思うよ。」 俺もそう思う。 多分… いや、どちらかといえば、確実に近い。 「あぁ、…分かってる。紘二は俺たちにとって最善の選択制をした…そう思ってる。」 「嘘をつくのは、しんどいね。…ねぇ、稑くん…」 「なんだ…」 「少しは楽に生きられるようになった?」 「あぁ…生きやすくなった。」 「そう、よかった。嘘をついた甲斐があったね。」 ゆっくり近づいて、苦笑する紘二の唇を啄んだ。 「…愛してる。俺も…俺もずっと…愛してる…」 人目も憚らずキスをした。 8年分のキス… 呼吸が苦しいけど、離れたくなかった。 このまま窒息してしまえばいいとさえ思った。 この幸せな気分のまま…

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