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第62話

家に戻るとチョコちゃんは玄関のカーペットの上にちょんこり座っていた。 そして静かに紘二を見上げた。 「チョコちゃん、紘二がな、帰ってきた…」 チョコちゃんにそう告げると急に実感が沸き上がってきた。 駄目だ… なんか、泣きそうだ。 チョコちゃんに伝えた事で胸がいっぱいになった。 「久しぶりだね、チョコ。」 紘二がしゃがんで撫でようとするとチョコちゃんはフイッとそれを避けた。 そして紘二は溜息をついてあからさまに落ち込んで見せた。 でも、チョコちゃんは素直でないだけで、今凄く喜んでいる。 ピンっと尻尾を立たせて、それはゆらゆらと静かに揺れていた。 これは猫が嬉しい時や楽しい時に見せる感情表現の一つだ。 「ふふ、チョコは相変わらずだね。」 「チョコちゃんらしい歓迎だろ。」 「上がっても?」 「当たり前だろ。」 紘二が部屋に足を踏み入れただけでも鼻の奥がツンとした。 アラフォーに近くなると涙脆くなるんだろうか… 「変わってないね。」 「あぁ、古くはなったけどな。…変えたく、…なかった…」 「え?」 「俺が変えたくなかっただけだ。全部変えてない…この家の物、全部。…取り巻く環境が変わっても、この場所だけは…あの時のままだ…」 「ふふ、稑くん…そんなに恋しがってくれてたんだ?」 「…」 「稑くん…可愛い…」 声が甘くなって、ゆっくりと近付いてきた紘二の手が俺の腰に回って引き寄せられた。 俺はすっぽり紘二の腕の中に居た。 「可愛くなんて、ない…」 「可愛いよ。」 「おっさん相手に可愛いとか…」 「ふふ、きっと稑くんはね、おじさんでもおじいさんでも可愛いよ…」 「そんなわけないだろ。」 「可愛いよ。」 「馬鹿…」 「稑くん…」 「ん…」 「キスしても?」 「い、いちいち聞くッ…ん!…ン…」 俺の言葉は紘二の唇に飲み込まれた。

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