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第63話
- 紘二side -
正直、いまだに信じられない。
稑くんが僕の腕の中に居るなんて…
しかもキスしてるなんて…
こうなるまでにはとても時間がかかると思っていた。
まず、稑くんを探すのに時間がかかるだろうし、その後の関係の修復には更に時間がかかるだろうと考えていた。
いろんな事を時間に置き換えて、それを計算しながら帰国したのに…
こんなに上手くいくものなのか…と、世の中をナメそうになった。
8年ぶりの稑くんは、相変わらず綺麗で、可愛い人のままだった。
"いってきます"
別れを切り出しておいて、その言葉で稑くんを8年も縛りつけた。
あえて別れの言葉を残さないで、いつものように会社に行くようなノリで書いたメモ…
最初は、ツラツラと女々しく別れの内容を便箋に綴った。
納得いかずに何度も書き直した。
最後になるかもしれないのに、女々しい事しか書けない自分が嫌になった。
稑くんが僕を思い出す事があった時、女々しいヤツだったな…だなんて思われたくなかった。
正直、あんなメモで縛り付けられるだなんて思っていなかったけど、結果、稑くんは待っていてくれた。
僕の帰りを律儀に…
「ン…ふ…ッ…ぅ…」
キスなんてするのは…
8年ぶり…
さっきも今も、ほとんど本能的なものだ。
僕自体が久しぶりすぎてキスの仕方を忘れてる。
だから、本能的に任せるしかない。
稑くん…
稑くん、稑くん、稑くん…
大好き…
僕は、8年分の気持ちを全てぶつけるようにキスをした。
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