64 / 81

第63話

- 紘二side - 正直、いまだに信じられない。 稑くんが僕の腕の中に居るなんて… しかもキスしてるなんて… こうなるまでにはとても時間がかかると思っていた。 まず、稑くんを探すのに時間がかかるだろうし、その後の関係の修復には更に時間がかかるだろうと考えていた。 いろんな事を時間に置き換えて、それを計算しながら帰国したのに… こんなに上手くいくものなのか…と、世の中をナメそうになった。 8年ぶりの稑くんは、相変わらず綺麗で、可愛い人のままだった。 "いってきます" 別れを切り出しておいて、その言葉で稑くんを8年も縛りつけた。 あえて別れの言葉を残さないで、いつものように会社に行くようなノリで書いたメモ… 最初は、ツラツラと女々しく別れの内容を便箋に綴った。 納得いかずに何度も書き直した。 最後になるかもしれないのに、女々しい事しか書けない自分が嫌になった。 稑くんが僕を思い出す事があった時、女々しいヤツだったな…だなんて思われたくなかった。 正直、あんなメモで縛り付けられるだなんて思っていなかったけど、結果、稑くんは待っていてくれた。 僕の帰りを律儀に… 「ン…ふ…ッ…ぅ…」 キスなんてするのは… 8年ぶり… さっきも今も、ほとんど本能的なものだ。 僕自体が久しぶりすぎてキスの仕方を忘れてる。 だから、本能的に任せるしかない。 稑くん… 稑くん、稑くん、稑くん… 大好き… 僕は、8年分の気持ちを全てぶつけるようにキスをした。

ともだちにシェアしよう!