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第72話

- 稑side - 信じられない… いまだにそう思う。 今もこれが夢だったら… そう思うと覚めてしまうのが凄く怖い。 もし夢なら… 夢だったとしたなら… 本当にもう… 堪えられない… でも、奥に感じる熱も、背中に感じる熱も本物だ。 ずっとこうされたいと思ってた。 全身で紘二の熱を感じたいと思ってた。 ズルッと抜ける感覚にビクビク身体が震えた。 確かに紘二の言う通り身体の負担を考えたら一刻も早く抜くべきなんだろうが、少し名残惜しい。 紘二が初めて… 初めて俺の奥に注いでくれた… 本当は、中出しもバックも好きじゃない。 ロッカールームで手早く済ませて、なんの労いもなくそのまま置いていかれた日々を思い出す。 去っていく背中をぼやけた目で見つめ時の絶望感はもう二度と味わいたくない。 トイレでかき出すけど、うまくできずに残った不快な感覚を連れての帰宅… そんな日の夜は、腹が痛くて、心も痛くて泣いた。 絶対にもうバックも中出しも嫌だ。 そう思っていた。 幸い、紘二はマナーのある人で中出しはしないし、俺がバックを拒否すれば聞き分けて絶対にしてくる事はなかった。 でも、いつからか俺は紘二が中出しをしない事を不安に思うようになった。 本当に俺を大切だと思っての事なのか、本当は愛情がないからなんじゃないのかとか… 俺は人を疑う事しかできない… 気づいてはいたが、紘二と付き合いだしてから、更に強く感じるようになった。 紘二と居ると、自分が汚い人間に見えてくる時がある。 まっすぐで、純粋で… 全力でぶつけてくる愛情が… 辛かった… でも、幸せだった。 幸せが辛い… なんて贅沢な悩み… 聞く人が聞いたらほぼ全員がそう思うと筈だ。 でも、俺にとってそれは紙一重… 少しずれたら奈落の底… それだけ危ういところで保っていた。 俺には… 紘二よりもあの人の方が合っているのかもしれない。 愛情をもらえない方が楽だと感じる俺にはあの人の方が… そんな馬鹿みたいな事を考えた事もあった。 当時は逆上せあがっていたが、今思うとどこかで割りきれていた気もする。 多分、俺を置いて居なくなったのがあの人だったら… 俺は8年間も待ってはいなかったと思う。 まだ若かったから、また次がある… そう考えていたのかもしれない。 なんだかんだ言って、俺は結局愛情が欲しかった。 誰かに愛されたかった。 愛してほしかった。 だからやっぱり… 俺はあの人じゃなくて、紘二じゃないと駄目だった。 でも、俺がそれに気づいたのは、紘二を失ってからだ。 本当に俺はどこまでも馬鹿なヤツだ。

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