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第74話
紘二の可愛さを今頃になって理解するなんて、俺はなにをしていたんだか…
本気で思った。
もうあの時が戻ってくるわけじゃないが…
本気で…
「稑くん?」
「俺たち、一番楽しい時期を無駄にしたな…っと思ってな…」
それは、紘二を待っていた8年が…じゃなくて、出会った時から…
実際、付き合った当初から紘二が居なくなるまでの間よりも、紘二を待っていた8年間の方が得たものが多い気がする。
色々隠しまくって素直になれなかった事で、その時にしかできない事、感じられない事、沢山あった筈だ。
後悔しても、もう遅い…
「…酷いなぁ、稑くんは…」
「え?…」
「僕たちの5年間を稑くんは否定するの?」
「…否定はしてないけど…」
「今の稑くんの発言は、否定してる事と変わりないと思うけどな。」
「…」
「もし、稑くんの言う通り無駄な時間かもしれなくても、そこには確かに…僕と稑くんの時間は存在していたって、僕は思うな。…違うかな?」
「違わない…」
「うん、違わないよね?」
「…」
「僕たちは確かに間違った付き合い方をしてたかもしれない。お互いに顔色伺って、本心を隠してしまった事とかも含めて…」
「あぁ…」
「大丈夫…」
「え?…」
「大丈夫…大丈夫だよ、稑くん。」
そう言った紘二の顔は、自信に満ちていた。
その自信はどこからくるものなのか…
それは分からない…
ただ…
ただ分かるのは、優しくなにかに包まれたようなそんな気分になったという事だけだ。
「…」
「だってそうでしょう?僕たちはお互いに間違いに気づいて、後悔して、反省した。」
「…あぁ…」
「そしてまた、こうやって出会えたし、あの頃よりも大人になった。」
「…うん…」
「だから、次は間違わない。人間なんだからまた間違える事もあるかもしれないけど、それを今なら素直に認めて謝る事もできる。」
「…」
「それに、僕たちはまだ寿命の半分も生きてないよ?確かに過去は戻ってこないけど、取り戻す事はできるよ。…まぁ、20代の時みたいにはいかないけどね。」
この8年、俺だけじゃなくて紘二も変わったんだと実感した。
強くなった…
根は変わらないけど…
頼もしくなった気がする。
昔だったらこんな風に自分の気持ちを口にしたりしない。
それが…
なんだかとても嬉しかった。
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