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第76話
本当に失礼なヤツだ。
好きな相手にそんな事言われたらおっさんでも傷つく。
太った自覚はある。
最近やっと…
やっと食べ物を美味しいと感じる事ができるようになってきた。
まだ味覚が定まらない食べ物もあるが、それでも全てがマヒしていたあの頃に比べたら…
嬉しくてつい食べ過ぎてしまう。
「そうじゃなくて…」
「え?…」
「健康的になったなっていう意味で。実際触ったわけじゃないけど、稑くんの体重が落ちてた事に気づいてたよ。だって一緒に住んでるんだから気づくでしょ?僕は稑くんに敏感だからね。」
「気づかないフリ…してたのか?」
「そうだよ。だって稑くんが隠したがっていたから。だから僕は気づかないフリをしていたんだよ。」
「…」
「稑くん。でもね、もう僕は気づかないフリはしてあげないからね。」
「…あぁ、俺ももう、隠したりしない。なにかあったらちゃんと紘二に話す。」
「ふふ、そうしてください。僕たちはパートナーなんだから。」
そう言って紘二は小さく笑った。
俺も紘二に抱き抱えられながら笑った。
次に俺が下ろされたのは浴室だ。
熱いシャワーが浴室に湯気を立てた。
腰に巻き付けられていたシャツがはだけた。
「紘二?」
湯気が紘二を隠して不安になる。
また置いていかれるんじゃないか…
こんな狭い浴室で、たった一人…
迷子になったようで心細くなった。
「どうしたの、稑くん?」
紘二の声に安心した。
優しくて、穏やかで、澄んだ声…
「居なく…なったかと思った…」
「ふふ、もう居なくなりません。稑くんが出ていけって言っても離れてあげないよ…」
「…紘二…」
「うん?…」
「抱きしめて…」
「…」
その腕は迷いなく俺を抱きしめた。
「キス…」
「ふふ…」
「笑うなよ…早く…」
その唇は俺の顔中を啄んで、最後に残された唇はまるで大好物を食べるように激しく俺を求めた。
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