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第78話
ペチペチと頬になにかが当たる感覚で目が覚めた。
「………紘…二?…」
「あー…よかった!!稑くん急に倒れちゃうからびっくりしたよ。」
どうやら俺は逆上せて倒れたらしい。
「馬鹿、やりすぎだ…」
「ごめん。だって稑くんが可愛くてつい…」
「ついってな…」
しゅんとする紘二が可愛い。
ゆっくり身体を起こした。
紘二が洗ってくれたのか、身体はさっぱりしているし、服も着ていた。
「今飲み物持ってくるよ。本当は寝かせてあげた方がいいかと思ったんだけど、熱中症とか怖いから一応起こしたんだ。」
「あぁ、悪いな…」
そういうと紘二は部屋を出ていった。
上体を起こして部屋を見渡すとここは俺の部屋だった。
紘二はあの部屋に入るのが怖かったのかもしれない。
だから洗面所からすぐの自分の部屋じゃなくて俺の部屋に運んだのかもしれない。
いや、でも紘二の部屋を見られるのも少し困る…
「お待たせ、稑くん。」
すぐに紘二が戻ってきてペットボトルの蓋を開けて俺に手渡した。
「ありがとう、助かる。」
「あー、えと、僕の部屋なんだけど…」
どうやら見られてしまったらしい。
「見た、のか?」
「あ、うん、ごめん…」
「あれでも…たまには掃除とか空気の入れ替えとかはしてたんだ…」
「うん…埃っぽくはなかったからそうなんだろうなって…」
「あの日のままなんだ…紘二の部屋…」
「うん…」
「あの日…最後に二人で寝た日からなにも変わってない…」
「うん…」
「家具はもちろん、シーツとか…あの日に寝起きしたままの皺が残ってる。…翌朝の俺の慌てようが表れてたろ?」
「うん…」
「ごめん、…気持ち悪いよな…」
気持ち悪いに決まってる。
俺だってそんな自分が気持ち悪いと感じてる。
「…稑くん、お水飲んで。水分補給が先。」
「ん…」
冷たい水を喉に流し込んだ。
やっぱり少し脱水気味だったらしい。
水が美味しく感じた。
「稑くん、僕さ、気持ち悪くなかったんだ。」
「え?」
「嬉しいって感じる僕の方が気持ち悪くて、…変態でしょう?」
そう言ってベッドサイドに座ってから俺の頭を甘やかすように撫で続けた。
たまに指先が頬をくすぐるのも凄く気持ちいい…
辛い時、何度もこの手に甘やかされる夢を見た。
「…稑くん、疲れてるでしょう?側に居るから…少し寝ようね?」
紘二の言葉に誘導されるようにまた身体を横たえた。
大きな手が規則的に動く…
それがとても心地よい…
「紘二…」
「うん?…大丈夫、このままずっと、側に居るから…」
「絶対?…」
「うん、絶対…」
「本当?…」
「うん、本当…。だからおやすみ、稑くん…」
紘二の掌の温もりを感じながら目を伏せた。
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