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第79話

朝、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。 目覚めたと同時にハッと素早く上体を起こした。 頭がガンガンしてこめかみを押さえて俯いた。 こんな時、確実な老いを感じる。 頭の痛みを感じながら顔を上げて紘二を探した。 紘二の姿がない… あの日を思い出して血の気が引いていくのを感じた。 頭の痛みも忘れて飛び起きると、あの日のよう足を縺れさせながら玄関に向かった。 「やだ!やだやだやだ紘二、…紘二紘二紘二…側に居るって…言ったじゃないか!」 頭は完全にパニック状態だ。 凄く取り乱している。 玄関に靴もない… 昨日のは夢だったのかもしれない… 絶望で目の前が真っ暗になって、力なくその場に崩れ落ちた。 不思議と涙は出なかった。 なにかに押し潰されるように身体が重くなる… 玄関のドアが開いたのはそんな時だった。 「稑くん?」 「こ…紘二ッ…紘二紘二…ッ…」 涙が溢れたのは俺の目が紘二を捉えてからだった。 「え、ちょっと、稑くん大丈夫?なにかあった?」 慌てた声の紘二がしゃがみ込んで俺を抱きしめた。 「そ、側に…側に居るって、言った…」 「うん、だからこうしてちゃんと居るでしょう?」 「起きたら、紘二…居なくてッ…」 「不安になった?」 「ま、また、…置いてかれた…と、思って…」 うまく喋れない。 途切れ途切れで幼稚な喋り方だ。 「ごめん、稑くんが起きてからにすればよかったね。」 「え…」 「朝食。稑くんが起きたら一緒に食べようと思って。冷蔵庫見たけどなにもなかったから買い物してきたんだ。」 「馬鹿ッ…!馬鹿馬鹿ッ…!紘二の馬鹿!!」 紘二の胸をバンバン激しく叩きながら言った。 そんな俺を紘二は優しく抱きしめて、耳元で何度もごめんと囁いた。 俺が落ち着くまでずっと… 「許して、稑くん…」 「…ごめん…俺が勝手に勘違いして、取り乱して…謝るの、俺の方だ。」 紘二が俺の為にしてくれた事なのに… ただ八つ当たりしただけの俺の頭を撫でてから立ち上がらせてくれた。 「すぐ仕度するから、顔を洗っておいで、稑くん。」 そういうと紘二が軽くキスをした。 正直、起き抜けの唇にキスとか勇気あるなとは思ったけど、朝からこうして一緒に居られる事が幸せだと感じたから、そこは余計な突っ込みは入れずに流した。

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