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恋心と勘違いside直輝
《直輝side》
小さい頃からずっと一緒に育って、何処へ行くにも何をするにも同じで俺の傍を離れない幼なじみがいた
品があって何処か儚くて、
目を離したらどこかに行っちゃうんじゃないかって思わせるようなそんな雰囲気を持ってるやつ
でも中身は誰よりも負けず嫌いで曲がったことも卑怯な事も嫌いでいつだって凛としてる男らしいやつ
だけど本当はいつだって泣きたくても押し殺してふわふわと優しい陽だまりみたいに笑って涙を隠す弱いやつ
俺はそんな幼馴染みの小日向祥が友達として大好きだった
祥の泣ける場所はいつだって俺の横であって欲しかった。
しっかりしてる癖に意外とおっちょこちょいで隙だらけだからいつでも色んな人に狙われやすい
だから俺はしょーちゃんの安息の場所になれたらいいなって思ってた
その思いは変わらず中学生に上がったとき、
少ししてしょーちゃんに好きな人ができた
髪色は馬鹿みたいに明るいけど、中身も太陽みたいに明るくて間違ったことが嫌いなハキハキとした気の強い女の子
しょーちゃんにお似合いだと思った
しょーちゃんが相談をしてくる度、そんなしょーちゃんが可愛くて可愛くて上手くいくといいなってずっと応援してたし本当に思っていた
そうだった筈だけど、
しょーちゃんから付き合った報告を受けたときどこか胸が締め付けられるように痛んで呼吸がしづらくなった
「直!俺、付き合うことになった!」
「……っ、よかったな」
「ふふっ直のおかげだよ、ありがとう」
そう言って綺麗に笑うしょーちゃんを見て俺はゾクゾクと背筋を這い上がる刺激に身を震わせた
陽だまりのような暖かな笑顔をして笑いかけるしょーちゃんをぐちゃぐちゃにして泣かせてやりたい
俺はその日初めてそんな事を思った、
しょーちゃんと彼女が一緒に居るのを見る度にその気持ちは強くなって、とうとう自慰をする時までしょーちゃんで抜いた
自分の中で何かが変わっていくのが怖くなって興味のなかった女の子と初めてセックスをした
「あんっ あんっ 直輝っくん…!」
「……なあ、直輝って呼び捨てにしてくんね?」
「ああんっ んっ、直輝っ」
目の前で甘く喘ぐ女にわざわざ呼び捨てにさせてまでしょーちゃんを被せてセックスをした
それから何度も何度も女を抱きながら、頭の中ではしょーちゃんを何度も何度も犯した
(しょーちゃんはどんな声で鳴くんだろ?どうやって彼女に触れて…どんな声で名前を呼ぶんだ)
心の中にどす黒い何かが沸き立つのがわかった
もう俺はしょーちゃんとは幼馴染みとして居られないってその時にはっきりわかった
それから暫くしてしょーちゃんが良く男に犯されそうになることが頻繁に起きてた
あちこちでしょーちゃんの事をイヤらしい目で見つめてる男達が腐るほどいる
俺もあんな目をしてしょーちゃんを見てんのか…
そう考えるだけで自分が死ぬほど嫌になった
一目見たらわかるような男の欲情しきった目なのに肝心なしょーちゃんは知ってか知らずか誰にでもニコニコと笑いかけてはホイホイとついていく
疑うことを知らずに、誰でも真摯に受け入れる
真っ直ぐなところが好きだった筈なのに、馬鹿みたいにいつも気付かないしょーちゃんにイライラが募っていった
無自覚なのか本当はわざとなのか
わざとだったら寧ろ良いのかもしれない。
俺のこの汚い感情も喜んで受け入れてくれるだろう。
だけどしょーちゃんは想像通りに無自覚だ。
自分がどれだけ人から好奇の目で見られてるか知らない。
裏でしょーちゃんをネタに下劣な事を話してる野郎がいる事を知らない。
真正から人を信じる度しょーちゃんは裏切られて痛い目にあって、中学生を卒業する前にはあんなに優しくニコニコと笑ってたしょーちゃんは、人から少し距離を取るように笑うようになった
変わらず優しく笑っている。
変わらず暖かい心も持っている。
だけど人と近づき過ぎないように壁を作ることをしょーちゃんは覚えた。
それでも俺の前では変わらずしょーちゃんは、しょーちゃんのままだった
しょーちゃんの事がただ昔から好きだった俺はしょーちゃんにだけは優しかったし、しょーちゃんにだけは意地悪をしなかった
しょーちゃんが俺を「優しい幼馴染み」って見てたからだ
大きくなるに連れて俺はどこか冷たいやつになったって親にもしょーちゃん意外の友達にも言われたけど、しょーちゃんの前でだけは小さい頃のように優しいままの俺でいた
でも優しい俺で居れば居るほど裏ではしょーちゃんを泣かせて虐めてそんなことを想像しては興奮していた
これ以上優しい俺でいるのは無理だと思った俺も人との付き合い方が変わった
興味無いものは無いと冷たくあしらってきたが、興味がなくてもそうでなくても皆平等に接するようになった
しょーちゃん以外の前ではあまり笑わなかったけど、それもやめてニコニコと誰にでもいい顔をして腹の底を見せないように変わっていった
そうなって少しすると案の定しょーちゃんは心配そうな顔をして「直輝変わったな」て俺に言った
「変わったのはしょーちゃんもだろ」
そう言いたい言葉を飲み込んで「そう?」と飄々と答える
腹の底を見抜かれないように、何を考えてるか気づかれないように
そうやって生活しなきゃしょーちゃんの傍にいる事が苦痛だったんだ
皆大人になれば外行きの仮面ができる。
本当の自分の顔に、外行きの仮面をかぶせて生活をしていく
一人になったとき仮面が剥がれると
嫌だったこと、悔しかったこと、悲しかったこと、言えなかった言葉、飲み込んだ言葉達が溢れ出す
きっと泣く人も居るだろうし、
笑い飛ばす人も居るだろう。
自分だけが知ってる自分だけの顔がある。
世間に同調するためにそうやって色んなものを笑顔のしたに隠して生きていく
上手く生きていく為に世間への本当の自分ではないもう一つの作り上げたイメージの顔を貼り付けて、そうやって皆生活していく事
それに気づいてからは楽だった
虚しかったけど楽だった
ニコニコと笑ってたら大人も同級生も俺に懐いて思うように動く
かっこいいね、凄いね、
飾りみたいな何度も言われたおざなりな言葉を並べられるのにも一々傷つかなくなった。
そうやって傷つかないように傷つけられないように自分を守るために装う事を覚えてからはしょーちゃんと関わる時も少し楽になった。
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