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ソファに座り込んで少しして眠ってしまったのか慌てて目を開けてキョロキョロと辺りを見回した
まずい寝ちゃった!時間は!
あわあわとスマホの電源を入れて時間を確認するとまだ2時間も経っていなくてほっとする
でもそろそろ起きようと思い自分の体に毛布がかけられていることに気づいた
座ったときに毛布なんてなかったのに…
直輝が俺の様子見に来たついでにかけてくれたんだろうと思うと胸がギュッとなる
熱も高いし辛い筈なのにそれでもそんな時でも俺の事ばかり気にかけてくれてる直輝に申し訳なさが募った
まだ夜の10時だ、
きっと直輝の熱も夜に連れて高くなるだろうし今日は1日寝ないで看病すると俺は決めて立ち上がった
寝室を仕切っているガラス張りのスライドドアを開けてそーっと中を覗くと直輝が姿勢よく眠っている
起こしちゃまずいと思って静かにドアを閉めると台所に立ってお粥を作った
それと生姜湯にハチミツも入れて作る
もしお粥を食べれそうになかったら生姜湯でも飲ませて眠らせれば少しはいいだろうから
直輝のことだからきっと何も食べてないに違いない
昔も熱を出したとき全くものを食べずに無理して居たのを思い出した
その時もヘラヘラとしては全く体調悪いことをみせなかったなーなんて思い出して笑みが溢れる
本当…強がりだよなぁあいつ…
皆の期待を背負えば背負うほど直輝は甘えも許さずそれに答えようと頑張る
ちゃんと裏で努力してること知ってる
ただのモデルだと思われないように勉強もぬかりなくやっているし、ちゃんと体作りもサボっていない
なんでもそつなくこなす奴だけどそれだけじゃなくてやっぱり凄い人の裏にはいつも努力した時間があるんだよなぁ…
なんて思いながら色々と準備をするとちょうど時間もいい頃に作り終わった
お盆を持って眠っているところ起こすのは申し訳なかったけど直輝を揺すり起こす
「直輝、起きて」
「…っ……ん、祥どうした?」
「お粥…食べれる?」
「…あぁ……悪い食欲なくて」
「……だよね……じゃあせめて生姜湯飲んでよ、ちゃんとハチミツも入れたから」
「ふっありがとう」
直輝がゆっくりと体を起こしてベットヘッドに寄りかかる
フーフーと生姜湯を冷まして直輝がチビチビと飲んだ
やっぱり想像通り直輝はかなり食欲がないのかいっつも食べるの早いくせに今日は飲むのも動きも何もかもがゆっくりだった
…お粥……やっぱり要らなかったかな…
作ったお粥をチラッと見下ろした時直輝がくすりと笑う
「祥がお粥作ってくれたの?」
「へ?うん…」
「食べなきゃ勿体無いよな…しょーちゃん温めてきてよ」
「え?!でも直輝…」
「祥が作った物なら食べるよ」
「いやそんな無理して食べたら後で苦しいのは直輝だから、これは俺が食べるし」
「ふふっそんなことないよこれ飲んでたら少しお腹減ったんだ、だから温めてきて?」
「え…」
どうしようか悩んでる俺に直輝が早く早くと急かす
いつもよりも柔らかい弱い直輝の姿に胸がキリキリした
温め直して戻ると直輝がベットをポンポンと叩いて座れと促す
お盆を持ったまま座ると直輝が口を開いた
「へ?」
「あーんして」
「えっ?!あ、あーん?!」
「そう、ね?いいだろ?」
「なっ…!む、無理だよ!」
直輝に無理矢理あーんをされた事は沢山あるけどした事は一度もない
だからどうしても恥ずかしくてしぶってしまった
そんな俺を見た直輝はまゆを歯の字に下げて笑うと冗談だよなんて言って俺からお盆をとって一人で食べ出す
いつもの直輝の意地悪な事なんだろうけど
でも一人で食べてる直輝がなんだか弱った子供ライオンに見えた
やっぱり俺が食べさせる!!
そう思って直輝から蓮華を奪うとすくいフーフーとして直輝の口元に運んだ
「え、祥?」
「あーんして欲しいんだろ…?」
「あははっなに今日は随分と優しいのな」
「うるさい…ほら、あーん」
嬉しそうに笑う直輝を見てこんな小さな事で喜んでくれるなら初めっからすれば良かったと思う
フーフーと冷まして直輝に食べさせる
何度か繰り返しているうちに直輝が俺を訝しげに見てきた
「……なに祥笑ってんの?」
「へ?いや…ふふっ…あははっ」
「…………」
ぐっと笑いを耐えていたけど思わず吹き出してしまった
なんだよとジト目で見てくる直輝のほっぺたを手のひらで包んでうりうりと撫でる
「直輝、おいしい?」
「…は?…いや美味しいけど……やめろよ」
「んふふ、そっかそっか〜美味しいか〜可愛いなぁ」
俺がにんまりと笑みを浮かべてそう言うなり直輝は言うと思ったよと言いたげな顔をしてムッとした
俺が運ぶ度に口を開いてもぐもぐと食べてる直輝が可愛くて仕方なかった
いつもの元気な時なら俺の事絶対に弄ぶかいたずらする癖に今日は本当に幼子みたいにパクッと食べてもぐもぐしてまた俺を見て食べさせて貰うのを待っている
素直で弱ってる直輝が不謹慎にも可愛くて愛しくて堪らなかったんだ
あんまりにも俺が笑っていたせいなのか直輝の機嫌が悪くなったのがわかる
だけどそれさえも可愛い
だって普段なら怒ってても拗ねたり機嫌が悪い顔なんて見せないのに…
「もう一人で食えるよ」
「ふふっごめんって、はいあーん」
「…いい」
「直輝、ごめんね?可愛いからさ」
「…へ〜ならあーんの後に好きっていってよ」
「はぁ?!」
前言撤回だ、やっぱり直輝は弱っていても直輝だった
「な、なんでだよ」
「いいじゃん、今日はギューもチューも出来ないんだし?言葉で表現」
「…だ、だからって」
「ふーん、出来ないならいいよ俺一人で食べれるから」
「怒るなよ…」
「…………」
「わかった!言うから!」
「ふっ、ありがと、好きだよしょーちゃんっ」
まんまと直輝に乗せられたけど
俺も笑っちゃったしぶっちゃけ寂しい
さっき一人で静かなリビングにいたとき直輝の体温が隣になくて物凄く寂しかった
「…じゃ、じゃあほら…あーんして…直輝」
「それだけ?」
「…っ……す、すき…」
「そんな小さな声じゃ聞こえないよ」
「…っ好き!ほらこれでいいだろ?」
「ふっ、うん」
直輝は納得するとパクッと素直に食べた
「しょーちゃん次は?」
「ぅぅ……っ……好き」
「あーん」
直輝が再びパクッと食べる
「……好き…だよ…っ」
「ふふっうん俺も」
「〜〜〜〜〜っ」
直輝が俺の手首を掴みわざと目を見つめながら口開き食べる
いやらしく赤い舌を覗かせて蓮華についたコメ粒を舐めとった
それからもずっと好きって言うと直輝が食べてを繰り返す度に頭がグルグルしてきて目がまわる
「〜〜〜っ」
「ほら、それで最後だろ?」
「…っ…好き」
「俺も好き」
そう言ってニッコリと笑って頬がほんのりと赤い直輝が嬉しそうに最後の一口を食べた
なんなんだよ…
最後の最後にそんな嬉しそうな顔して笑うなんて卑怯だ馬鹿
ドキドキとうるさい心臓の音を聞きながらきっと俺の方が直輝よりも顔が赤いだろうほっぺを触りながら下を俯く
直輝に呼ばれて顔を上げるとオデコにチュッとキスをされた
「ありがと、美味しかったよ」
「〜〜〜〜っ、薬飲んでちゃんと寝ろよ…」
「そうするよ、お休み祥」
「うん、お休み」
直輝が布団に潜り込むのを見つめて部屋を出た
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