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漣と君の声
「祥お疲れー」
「先輩お疲れ様です!」
「天使じゃあね〜」
「ちょ!天使は辞めてください」
最後のお客さんを見送って、
閉店した店で掃除をしながら先に帰っていく先輩たちを見送る
皆それぞれスタイリングやカットの練習をして残ったり、早く帰ったり
今日も相変わらず閉店した後もお店は騒がしかった
「祥もう上がるだろ?」
「あ、オーナーお疲れ様です!んーそうですね今日は結構遅くまで残っちゃったんで」
「だよなぁ〜他に俺とラーメン食いに行ってくれる天使居ないかな〜」
「オーナーほんとそれ辞めて」
「あははっ」
子供っぽいオーナーは相手にされないと決まってこうして拗ねては意地悪をしてくる
でも今日はかなり遅くなっちゃったし
明日直輝も俺も午前中はお休みで暇だから早く家帰って久しぶりに一緒にいたい
そう思った俺はシャンプーの練習に参加したあと早く掃除を終わらせて先輩達に挨拶をした
「あ、祥帰るの?」
「瑞生さん!今日はもう帰ります」
「あ〜なおちゃんか」
「……っ…い、いや…」
「隠してもわかるよ〜祥嘘つくの下手だしね〜」
「…そうですか?」
「ふふっそうそう、お疲れ様気をつけて帰るんだよ」
「はい!瑞生さんも気をつけて下さいね!お疲れ様です!」
瑞生さんが微笑みながらふわっと頭を撫でてくれる
あの日から少しずつ瑞生さんとは
気まずさもなくなり前よりも仲良くなった
それはきっとやっぱり瑞生さんが大人で俺に気を遣わせない為にしてくれているからだと思う
こうして瑞生さんと打ち解けられると思ってなかったから何だか手放しには喜んだらダメなんだろうけど嬉しかった
前よりも雰囲気が柔らかくなった瑞生さんに挨拶をしてお店を出る
終電間に合うかな?
腕時計を確認して走ろうとした時よく知った声で名前を呼ばれた
「祥!」
「ん?!…え!直輝?!」
「お疲れ様〜」
バイクに跨りヒラヒラと手を振ってこちらを見伺っているのは紛れもなく直輝だ
「直輝!」
「おっ…!危ないよ祥」
「どうしているんだよー!」
今すぐ会いたいと思って、一秒でも早く帰ろうと思っていたのに会いたかった直輝が目の前にいて思わず走りだして抱きついてしまった
「人の話を聞け」
「あいたっ」
全力で抱きついた事を直輝に注意されたけど話を聞かなかった俺に落ち着けと直輝が頭にちょっぷをしてくる
「明日祥も俺も午前中休みだろ?」
「うん!」
「だから海行こうかなって」
「海?!」
「そー、それなりに遠いけどそこ星が凄い綺麗らしい」
「星が?!」
「ふはっ落ち着けって祥、五歳児みたいだぞ」
「あっ……五歳児は言い過ぎだ…」
「はいはい拗ねてないでヘルメットつけたら後ろ乗って」
「うん」
ポーンと渡されたヘルメットを被って直輝の後ろに乗る
「ちゃんと捕まってー」
「ちょっと待って!」
「ん?」
「よし、これで大丈夫」
「いい?」
「しゅっぱーつ!」
「ふふっだから餓鬼かっての」
直輝の背中にギュッと抱きついて腰に手を回す
9月下旬のまだまだ夏の匂いを残した少し暑い夜をバイクに乗って風を切るように走り抜けた
「どこまでいくのー?」
「んー着いてからのお楽しみ」
「なんだよそれー」
「良いから落ないようにちゃんと捕まってろ」
「はーい」
風を切る物凄い音と
直輝の少し低いハスキーな声が混ざる
言われた通りぎゅうっと抱きついていると
直輝の体温が染みてきて心が締め付けられた
大きな音の中なら聞こえないかな?
風を切る音と混ぜ合うようにして小さく小さく呟いた
「………直輝…好きだよ」
どうしても意地を張って普段口にできない言葉
なんで目を見て言えないんだろう
こんなに一度口にしただけで泣きたくなるほど溢れてるのに
直輝にバレないってわかったら俺はこんなに簡単に口できちゃうのになぁ
なんて考えてもわからないような事をぐるぐると思いながら呟いた
何度も何度もいたずらするみたいに
呟いては聞こえていないだろう直輝の、風になびいている白髪の襟足を見つめて胸をギュッと締め付けられながら
「祥」
「んー?」
「さっきから聞こえてる」
「え……?!」
「言うならちゃんと目見て言えよな」
「う、嘘だ?!」
「ほんとーに」
「〜〜〜〜っ」
直輝の笑を含んだ声色で告げられた言葉に身体中が熱くなる
聞こえてないと思って何度も何度も言ったのに全部丸聞こえだなんて恥ずかしくて堪らない
「あははっ急に静かになったな」
「き、聞こえてたなら早く言えよ!」
「勿体無いじゃん?久しぶりに祥から言われたわけだし、たまには聞きたいなーて」
「………バーカ」
「それもちゃんと聞こえてるからね」
「バカバカバカ!ハゲ!」
「ふっ祥向こうついたら覚悟しろよ?」
「やだよーだ」
「ったく、ほんと可愛いな祥は」
「うっさい変態!」
「可愛い可愛い可愛い」
「…っ……直輝こそ子供っぽいぞ」
「別に俺子供で構わないよ、しょーちゃんは可愛い可愛い俺の大好きな恋人です」
「やめろって…っ」
「あははっ、なら反省した?」
「……ハゲって言ってごめん」
「バカは訂正しないんだ?」
「だってバカだろ…っ!」
「まあ間違いないね、俺は祥バカだしな」
「〜〜〜〜っ!も、もう恥ずかしい事ばっかり言うなよ!お前口開くな!」
さっきの俺へのやり返しなのか
わざと俺が照れることばっか言ってくる直輝の肩甲骨に噛み付いた
そしたらまたケラケラ笑い出すから
あんまりにも幸せそうに直輝が笑ってるから
何かもうどうでも良くなってきて俺もつられて一緒に笑った
それからずっと二人でどうしようもない小さなことでも馬鹿みたいに笑っていた
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