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独占欲と我慢

「直輝ー!」 「お疲れ」 「直輝こそお疲れ様」 学校が終わってから一時間くらい経って待ち合わせ場所に直輝が制服姿でこちらへ歩いてくる 今日たまたま夜の仕事がなくなった直輝から連絡が来て、ちょうど俺もバイトが無いからたまには外でご飯を食べることにした 「何食べる?」 「んーなんでも〜」 「…直輝っていつもそれだよな」 「じゃあ、祥が食べたいって言ったら食べさせてくれる?」 「っ?!バカ!声大きい!」 「そう?誰も見てないよ」 駅の改札口の横、人が多くて死角になっている場所で グイッと腰を引き寄せられてスルスルとお尻を撫でてくる ゾワッとした感覚に身震いをして胸板を叩いたらやっと直輝が離してくれた 「顔真っ赤だよ?どうした?」 「〜〜〜っうるさい!」 「ちょっと先に充電させて」 「っ!お、おい直輝……」 少し疲れているのか間延びしたようなやる気を感じないそんな声で話しながら直輝が抱きしめてくる ふわっと爽やかな香水の香りがして胸がぎゅっと締め付けられた 外で抱きしめられてるのは少し不満だけど直輝の匂いが好きなお陰で、外だってことも忘れてクンクンと匂いを嗅ぐ ………俺も同じ香水買おうかな なんて香水なんて一切つけない癖にそんなことを考えていたら直輝がケラケラ笑い出した 「ふふっ犬かよ」 「っべ、別に…」 「俺の匂いそんなする?」 「匂いなんて嗅ぐわけないだろ」 「うっそだ〜クンクンしてた癖に」 「違う!勘違いだバカ!」 全くもって直輝の言う通りだったけど なんでか否定してしまう 気まづくなって赤くなった顔を見られないように背けて歩き出すと直ぐに直輝に腕を引っ張られて手を繋がれた 「直輝ここ外だしバレたら…」 「大丈夫だって、人多いしもう暗いから平気」 「……バカ」 「バレても何も言われねーよ、言われたらキスでもして見せつけてやる?」 「あははっそんなことしたら篠田さんに怒られちゃうよ」 堂々としている直輝とその言葉に思わず笑みが溢れる もしも本当にそんなことが起きたらきっと直輝のマネージャーである篠田さんは卒倒してしまう気がした だけど何でなのかな 直輝がこうやって隣で堂々としてくれているから、俺はいつもそんな直輝に救われてる 10月の日が落ちて暗くなりかけた街を手を繋いで歩く 何度も触れ合う肩が何だかとてもくすぐったく感じた 結局まだ夕方の6時で、ご飯には早いよなって話になった俺達はせっかくだしご飯よりも映画を見る事にした 「まだ映画まで時間あるけどどうする?」 「ん〜なんでもいいけど〜……あ、俺行きたいところあんだよね」 「どこ?」 うーんと考えていた直輝がハッとする そんなに行きたい所だったのかと思い聞いたことを俺は後々後悔することになった 直輝に黙って連れてこられた路地裏にあるお店 地下に入口があるらしく人が一人通れるくらいの狭い空間を降りていく やたらと入り組んでいてこんな所に何の用事なのかと思ったが、お店の中に入ってギョッとした 入った途端に視界に入るのはめまぐるしいほどあちらこちらにあるアダルトグッズ どこもかしこも見たこともないような品物があって思わず喉がゴクリと上下した 「祥?おいで」 「っ!」 あまりの刺激に頭が追いついていないままボーッとしていたらいつの間にか直輝が遠くにいる キョトン顔でおいでとしているが とぼけた顔したいのは俺のほうだ 「直輝………」 「んー?」 「………出よう」 「なんで?」 「な、なんでって……」 目をやるばがなくて下を俯き話していると何やら玩具を手に持った直輝が俺を見てきた 「祥、遠隔操作のやつ欲しくない?」 「いらない」 「ならこのディルド?」 「迷惑」 「だったら、こっちのアナルパール?」 「死ね変態」 どこから持ち出したのか手に持たれた幾つもの玩具を俺に見せびらかしては反応を見て楽しんでいる 昔から直輝は俺の事こうやってからかって遊んでは楽しんでいた 小さい時の色んな記憶が蘇ってきて尚更ムカムカとしてくる 「俺先外でてるよ」 「ちょいストップ」 「なんだよっ」 くるっと後ろを向き歩き出した途端に後ろから伸びてきた腕が肩に巻き付いてきてそのまま抱き寄せられる 「ねえ祥覚えてる?」 耳元で聞こえる甘ったるい声 直輝がこうやって話しかけてくる時は大抵俺にとっては良くない事ばかりで… 「なっ…なに…」 「ずっと前のデートでさ、ぬいぐるみ取ってやったじゃん?」 「………え…えー?そ、そんなことあったかなー?」 ニコニコと微笑む直輝の顔が怖い 案の定想像通り、俺にとって絶対にいい事ではない何かを企んだ笑顔だ ダラダラと冷や汗が止まらなくてまるっきり棒読みのまま口から言葉が溢れる 「ふーん?覚えてないの?」 「…う、うん……俺最近…記憶力悪いのかなぁ……えへへ…」 「へ〜〜〜祥って俺の事好きじゃないんだ〜」 「えっえぇっ?!」 「だってそうだろ?あんだけ喜んでたくせに、ましてや初めてのデートなのに……そうなんだね祥にとってはそんなもんか…」 「な、直輝…?!」 ふわっと拘束してきていた腕が肩から離れていく 開放された体が一歩前に出た 慌てて後ろを振り向くと 悲しそうな顔した直輝がやんわりと笑顔を浮かべていて喉の奥が締め付けられた

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