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02
「な、直輝………」
「んー?お店出ようか」
「えっ……え……でも…」
「なに?出たいんじゃなかった?ほら、行こう」
手に持っていた玩具をテキパキと元の場所に置いた直輝が出口へと向かっていく
さっきの悲しそうな顔とアッサリしすぎているその態度に心臓がキリキリとい痛んだ
「祥〜?ほら何やってんだよ、おいで」
「えっ……ま、待って直輝!」
「なに、どうしたの?」
「………………」
直輝が振り返り首を傾げて聞いてくる
思わず呼び止めてしまった俺は次の言葉が出てこなくてたじろいだまま俯いてしまう
「はぁ〜…映画始まる前に戻ろ?」
「………ごめん」
「……なにが?」
「ごめん……嘘ついてごめん……」
「…………」
俯いたままの俺を気にして直輝が戻ってきてくれる
なかなか一人で歩き出さない俺に痺れを切らした直輝が手を握ってくれて
入口へと歩き出そうとしたけどその手をギュッと引っ張った
「直輝とのデート忘れてないよ…一つも全部全部忘れてないのにごめん…嘘ついて…」
「ふーん?」
「……嘘じゃないよ……だから…だからさっきみたいなこと言わないで」
「………祥が嘘つくのが悪いんだろ?」
「――っ………うん………」
「なんてな、冗談だよ気にしてないから行こう」
「待って!」
「なんだよ?後ほかに何が心配なの」
「………お願い……聞くよ……約束だもん…ちゃんと聞く……俺ちゃんと覚えてるよ…」
「……本当に覚えてる?」
「お、覚えてるよ…!直輝と取れるか取れないかで賭けたやつだろ!あの可愛いライオンのぬいぐるみだろ……俺のベットで寝てるもん……」
「寝て……ぶはっ」
「〜〜〜っ!笑うな!」
ぎゅうっと握り締めた手をぶんぶんと振ってお腹を抱えて笑いあげる直輝に反抗する
こっちは必死に伝えてるのに笑われちゃったら恥ずかしくて堪らない
「ふははっ寝てるって…っあはは!」
「〜〜〜っ!」
「あーあー悪かったよ、ごめん膨れんなよ」
「…………」
「ふふっ、で?それで何が言いたいの?」
「……だから……直輝のお願いごと聞くから…落ち込まないで…」
「………っ」
じっと見ていた直輝の顔が見る見るうちに歪み出す
そしてまたぶはっと大きく吹き出すと目に涙を溜めるほど笑いあげた
「なっ!なんで笑うんだよ!」
「可愛いなぁ!もう!」
「――っ!」
「あ〜、まじで可愛いわ」
「かっ可愛くないっ…それにここお店の中だぞ…離せっ」
「大丈夫だよ俺達しかいないよ」
「で、でも……」
グイグイと押し返すのに抱きしめたまま直輝がオデコにちゅっとキスをしてくる
触れられたそこがジンと熱くなった
「な、直輝……」
「ふふっ、なに?唇にも欲しくなっちゃった?」
「〜〜〜〜っ」
「顔真っ赤にしちゃって本当に可愛いね」
「かわっ!ーーーッ……んっ……ふぅ…」
「…っ…ん、続きは家に帰ったらな」
「……っ……変態」
「祥は淫乱ちゃーん」
むぅっとして睨みあげるとクスクスと直輝が笑いながら髪を撫でてくれる
もう本当俺も馬鹿だな
直輝が幸せそうに笑うから恥ずかしいのにそれでもくっついてたいなんて思っちゃうんだから
俺は心底直輝に惚れているんだって嫌でも実感する
それから人が居ない店内を手を繋いだまま回って
あんまり見たくない俺に嫌がらせでわざと直輝が目の前に突き出してきたり
それを見て俺が逃げたりして
一人で楽しそうな直輝に振り回されながら買い物をした
「……もうここは二度と来ない」
「あははっげんなりしてんね」
「当たり前だろ…!あ、あんなの破廉恥だよ…」
「祥が乱れてる姿はもっと破廉恥だよ?見る?」
「み、見せなくていい!てか消せよバカ!」
ポッケから取り出したスマホを操作してバニーの服を着た時のムービーを再生しようとする
思わず反射で直輝に飛びかかったら足を滑らせちゃって、転びそうになった俺を直輝が抱きしめてくれた
「祥危なっかしいな〜」
「ご、ごめん…」
「本当変なところで抜けてるんだから気をつけろよ」
「……うん」
横目で俺を見ながら直輝が注意してくる
直輝の言ってる通りで申し訳ない
「俺の前でだけならいいけど祥の事だから他の奴にもそうやって助けられてそうだし」
「そ、そんなことないよ」
「どうだかね〜」
「……」
ちょっとだけ冷たい直輝を横目でチラッと見上げて考える
…………これっていわゆるアレなのかな
「聞いてんのか?」
「きっ聞いてるよ!」
「………まあいいけど、間違っても他のやつと事故でキスしちゃいました〜とかするなよ」
「しないってば」
「したら今度は尿道の中にバイブぶっさしたまま玄関の外に裸で放置するから」
「ッ?!」
恐ろしい事を笑顔で言う直輝に背中がひんやりとする
その顔は冗談とかではなくて本気だと物語っていてそうなりたくない俺は必死に頭を振った
「よしよし、いい子」
「………直輝」
「んー?」
「……い、今のとかってさ」
「今の?」
「うん……今話してた事とかって……妬きもち?」
「…………」
「……ってそんなわけ無いよね、ごめんね忘れて」
「………」
キョトンとしている直輝を見て違うんだと分かる
なんだ、妬きもちじゃないんだな…
妬きもちだったらちょっと嬉しかったのに
そんな馬鹿な事を考えてしまって呆れて思わず笑みが溢れる
あんまり直輝って妬きもち妬かないし
妬いたとしてもそんなに態度に出ないからわからない
俺は多分直ぐ顔に出ちゃうし…
現に今までも一人で妬きもち妬いて直輝にからかわれてたけど
直輝は俺とは違ってあんまり妬きもち妬かないんだなぁってほんのちょっぴり落ち込む
妬きもちしないからって好きじゃない何て事は思ってないけど
直輝みたいに何でもさらっとしてる人は少したまに不安になるんだ
俺がもしも、もしも離れたら直輝は簡単に手放したりするのかなとか
直輝の体にキスマークがついてたみたいに
俺がキスマークをつけてもきっと直輝は俺とは違って、ふーんとか言って終わりだろうし
………俺直輝に妬きもち妬いて欲しいのかな
グルグルと色んな考えが溢れてくるけど
折角のデートだしモヤモヤしたままなんて嫌だから深呼吸をすると色んな感情に蓋をした
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