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03
「祥ー?元気ないね、どうしたの?」
「あ…瑞生さん…」
「俺で良かったら話くらい聞くよ」
「あの……えっと…」
学校が終わっていつもと変わらずアルバイトをしているお店に向かう途中で、後ろからやってきた瑞生さんに声を掛けられた
またそんなに顔にでてたのかと思って直ぐに笑顔を作り口篭っていたら瑞生さんに頭を撫でられる
その手にハッとして顔をあげたら瑞生さんが優しく微笑みながら俺を見ていた
「無理して言わなくていいよ」
「……すみません」
「無理し過ぎるのは駄目だけど、頑張りたい事もあるだろうし話せない事もあるだろうから謝る事じゃない」
「ありがとうございます」
「まあそれに祥にそんな顔させるのって言ったら大体予想つくしね」
「えっ?!あ…っ」
「ふふっ顔真っ赤だよ祥」
「す、すみませんっ」
「可愛いから許す〜」
「瑞生さん…可愛いは辞めてください…」
「ごめんごめん」
ニヤニヤと笑っている瑞生さんにそう言うと全く謝る気のない返事が返ってきた
瑞生さんとは前よりもうんっと距離が近くなったと思う
昔感じた何を考えてるか分からない怖さとかもなくなって、相変わらず確かに何を考えてるかは分かりづらいけどでも前程じゃない
それに、何よりも一番変わったと思ったのは笑顔だって目の前に立つ瑞生さんの微笑む姿を見てそう思った
「…瑞生さん、前よりも優しく笑うようになりましたよね」
「え、そうかな?」
「はい…なんか前は笑ってても笑ってない感じがして俺本当は少しだけ瑞生さん怖かったんです」
「あははっ凄いいきなり暴露したね」
「あ!嫌いとかじゃないですよ?!」
「わかってるよ〜」
「…あ」
「ん?」
「今の!今のとかです、今瑞生さんの笑い方凄い優しいっていうか何か暖かいっていうか…」
必死に説明しようとしてる俺を見て瑞生さんがキョトンとしている
でも直ぐにまた目を垂らしてクスクスと笑いあげた
「あー凄い笑っちゃった〜祥って天然だよね〜」
「て…んねん…?…それはないですよ」
「どうだろうね、今度直ちゃんにでも聞いてみなよ」
「……はい」
「…あのさ、祥」
「なんですか?」
「俺の笑い方が変わったってのはあながち間違ってないかもしれない」
「っ!やっぱり!何かいい事あったんですか?」
「ふふっそれは内緒」
「瑞生さんケチ」
「俺の話は今度ゆっくり時間がある時で、今は祥の事」
「俺の事?」
「うん、俺も変わったけど祥だって凄く変わったよ」
「俺がですか?」
「そう、祥も前よりもうんっと笑うようになったし直ちゃんと付き合ってから祥あんまり考え込む事が少なくなった」
「えっ」
「祥は他人に弱い顔とか見せないタイプじゃないの?俺が見た祥っていつも全部一人で解決して一人で考え混んでって感じだったけどさ直ちゃんと付き合ってから祥少し緩くなった」
「緩く…それってあんまり良くないんじゃ…」
「逆だよ、一人で気張り過ぎるのも毒だよ、頑張る時と誰かに頼る時そういうのちゃんとうまく分けて行かなきゃいつか祥がダメになっちゃう」
「…………だとしたら、俺は直輝に迷惑ばかり掛けて直輝の大変な事とか何一つ一緒に背負って上げられてないきがします」
「ふふっもうそう言う気持ちがあるって事が十分過ぎるくらい直ちゃんにとったら励みになるんじゃない?」
「え?」
「祥だって別に全部の悩みを打ち明けて直ちゃんの隣にいる訳じゃないでしょ?」
「はい…」
「でも、隣に大切な人が居てくれるから今迄と違ってうんと強くなれたり優しくなれたり頑張ろうって思えたりするんじゃないのかな」
「っ!」
「悩みを聞いてあげられてるか一緒に解決してあげられるかってのもたまには必要かもしれないけど、それよりも大切な人が自分の隣で笑ってくれてるって存在自体に助けられてない?」
「………瑞生さんっ」
「あははっ祥は本当に直ちゃんが好きなんだね」
「はい…」
「早く仲直り出来たらいいね」
「………謝りたいけど意地張っちゃって」
「焦らないでさ、意地張っちゃっても本当の気持ちとは逆な事を言っちゃっても直ちゃんの目そらさないで真っ直ぐ見つめて何度でも何度でも伝えようとしたらちゃんと伝わるよ」
「……はい…瑞生さんありがとうございます」
「いいえ、直ちゃんもきっと意地はってるのかもしれないしね」
「……直輝が意地はってる…」
「想像つかないって顔してるね」
「ちょっと、…はい」
「まあ初めての喧嘩なんだし二人のペースで解決していきなよ、もし謝りずらかったら来週ある美容祭にでも誘ってみたら?」
「美容祭…!」
「それで少しは話切り出しやすくなるでしょ?」
「はい!」
「あははっ少し元気になったね」
「もうなんか瑞生さん頼ってばかりですみません…」
「気にしないの」
「…ありがとうございます」
「いえいえ、ほらもう直ぐお店着くし営業終わるまで頑張ろう」
とんっと背中を優しく押してくれる瑞生さんの笑顔が優しくて俺もつられて笑みがこぼれた
瑞生さんにも励ましてもらったんだし、今日家帰ったらちゃんと直輝に連絡しよう
意地はっちゃってもちゃんと謝って
しっかり伝えなきゃな…!
そう思って自分に喝を入れると朝よりも全然どんよりした気持ちが何処かへと消えていって
営業中も楽しくバイトに集中することができた
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