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『直輝〜早く遊ぼうよぉつまんな〜い』 ガヤガヤと煩い音楽に混じって 直輝の名前を呼ぶ女の子の甘えた声が聞こえてくる 一瞬聞き間違いかと思ったけど追い討ちをかけるようにそれはまた聞こえてきて 喉がぎゅっと締め付けられた 携帯を持ったまま固まってると直輝の声が聞こえてくる だけど少し声が遠くてその子へと何かを話してる言葉は聞こえなくて それから少しして静かな所へと移動したのかガサガサした音は無くなり今度は痛いほどの無音に包まれた 「悪い祥、煩くて聞こえなかった」 「………」 「もしもし?」 「……あのさ直輝」 「ん?」 「仕事って…」 「仕事がどうした?」 至って冷静に直輝が聞き返してくる やましいことなんて無いんだろうけどさっきの直輝と女の子の会話が頭の中で繰り返されて仕事って何なのか不安になってきた ていうよりも、本当に仕事なのかなんて事まで思えてきて嫌になる 「…今女の子と居るの?」 「……いや」 「…でも女の子の声…聞こえたよ」 「勘違いだろ」 「………」 言葉が見つからない なんで嘘つくんだ… 勘違いなわけがないのに ハッキリ直輝がその子の名前を呼ぶ声も その子が直輝に甘える声も聞こえたのに なんで隠すんだよ 「…嘘つくなよ」 「……」 「隠す必要ないだろ、仕事で女の子と居るならそうだって言ってくれれば別に…」 「言ったら気にするだろ」 「へ?」 「今ここで女と居るって飲んでるって祥に言ったら、祥気にするだろ」 「…っ……」 「……はぁ、悪かった、喧嘩する為に電話したわけじゃないし明日話そう」 「…直輝が嘘ついて隠すからだろ…俺だって喧嘩するために電話したわけじゃない」 「だからそれは悪かった、俺はやましいことなんてしてないし本当に仕事だからこれも」 携帯を持つ手に自然と力が入る 遠回しに俺とは違うみたいなトゲのある言い方に胸が痛い 「……なんで俺だけやましい事してるみたいな言い方すんの」 「現にそうだろ?いつでも俺以外の奴に触られてニコニコ笑って祥もまんざらでもない顔してる」 「それは…相手は単に俺の事友達としてとか、後輩としてとかで触ってくるだけで下心なんてない!」 「…それ本気で言ってんの?」 「本気だよ!それに俺は男同士だけど…っ……直輝は女の子じゃんか……」 「………だから?」 「だから…って………だから下心あるんだとしたら直輝の方だろ!」 「………俺が女と飲むの楽しんでるって言いたいわけ?」 「っ……そうなんじゃないの、仕事って言って女の子とイチャイチャ出来て良かったな!俺みたいな男じゃなくて女の子の方が本当は好きだしね直輝は…っ」 「…………」 電話の向こう側が静かになる こんなこと… こんな酷いことを俺は言いたかったわけじゃない 意地張って勢いで口にしてしまった酷い言葉にハッとして、謝ろうとしたとき黙っていた直輝が話し出した 「そうだな」 「…え」 「俺は元々女が大好きだし、祥とは違って素直で可愛いし好きだって言ってくれるしな」 「…っ……」 「祥も良かったじゃん?高田って奴に沢山可愛がって貰えよ、友達なんだしやましいことなんてないんだろ」 「っなんだよその言い方!」 「別に?俺も祥も意図してやましいことはしてないなって思ったからそう言っただけだけど」 「遠まわしにしてるって言ってるじゃんか」 「そう聞こえたなら祥はやましいことしてるって事なんだろ」 「なっ…!」 小馬鹿にするように直輝が嘲笑を含みながらそういってくる あからさまにわざと高田と俺を強調してくる直輝に段々と腹が立ってきた 「そんな回りくどい言い方しないでハッキリ言えよ」 「………言うことなんかない、仕事戻るわ」 「そうやっていつもいつも、大事なことばっか黙って………もういい分かった、直輝がそうなら俺も勝手にするからな」 「…………」 「直輝のバカ!大嫌いだ!」 勝手にするなんて嘘だ いつもみたいに何でもお見通しだみたいにそうやって止めてくれない現実に涙が出そうになる 結局そのまま電話を切って仲直りするどころか一層こじれてしまった 怒ってるのか悲しいのか後悔してるのか 色んな感情がグチャグチャと入り交じって頭が心に追いつかない 直輝が浮気してるとか、そう言う事疑ってるとかじゃないのに どうしてもたまに女の子ってだけで俺じゃダメだって言われてるみたいで勝手に劣等感を抱いてた それに本当に直輝は女の子ともう遊んでないのかとか、付き合う前はあれだけ女遊びが酷かったのに 俺なんかで満足させてあげられてるのか グルグルと不安とマイナスな考えしか浮かんでこない 直輝と付き合ってそれなりに時間がたったけどまだ三ヶ月なんだな… 恋人になって三ヶ月 俺、本当に嫌な奴になってる 友達として肩並べてた時こんな小さな事で揉めなかったのに 隣で直輝が笑う時たまに急激に不安になるんだ これがいつか終わる日が来るかもしれないって 同性同士の恋愛のゴールってなんなんだろうって 「……直輝ごめん………本当は好きなのに……」 一番馬鹿なのは俺だ 仕事中に電話かけ直してくれる それが直輝の俺に対しての気持ちの表れだって分かってるのに なんで素直に言えないんだ こんなんじゃいつか本当に俺は直輝に嫌われる ………本当、馬鹿だな ツンと鼻の奥が痛んで喉がぐっと締まる 頭の中でさっきの電話が繰り返されて自分の情けなさとか直輝の何も言わない所の腹正しさとか 全部全部まとめて悔しさに涙が出そうだった だけど泣くなんてもっと嫌で それをグッと堪えて唇を噛み締めると そのまま無理矢理目を閉じて布団の中に潜り込んだ

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