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05
「でもその格好でウロウロさせるのは嫌だな」
「あ、瑞生さんからジャケット借りたからそれ羽織るよ!」
「………」
手元にある瑞生さん借りたジャケットを指さしそう言うと直輝が少しだけ眉間に皺を寄せる
「ダメ」
「え?」
「彼氏が目の前に居るのに他の男から借りたやつなんて着るなよ」
「あっ…!」
「あいつのジャケット着させるくらいなら俺のシャツ脱ぐからそっち着て」
「え?!それは悪いよ!」
「……はぁ…なあ祥?」
「なに…?」
「喧嘩する前、祥さ俺に妬いたりしないのかって聞いただろ?」
「うん」
「本当にそう思うの?」
「……え…だって…」
「………」
目の前に居る直輝が真っ直ぐ真っ直ぐ俺の目を見てくる
開きかけた口を閉じると
なんて言えばいいのか分からなくなった
「俺は祥の事になったら冷静じゃ居られないくらい惚れてる、大好きなんだ」
「――っ!」
「…祥が頭撫でられたりちょっとスキンシップ多かったりそういうの今に始まった事じゃないし、祥が周りから愛されてる証拠だから妬かないようにしてるだけ」
「え?!」
「俺がそれに一々妬くたび祥に八つ当たりしてたら、それこそ良くないだろ?祥にとって大切な人は俺だって極力大切にしたいとは思ってる…祥を笑顔にしてくれる人は俺にとっても守りたい枠の人達だから」
「…直輝」
「そう思ってるから言わないだけで、本当は祥よりも俺は嫉妬深いよそのうち監禁とかしちゃいそう」
さっき迄の真剣な直輝が消えて
いつもと変わらないヘラっとした表情でにっこり笑いかけてくる
直輝の言葉を聞いて驚いた
てっきりしてないって思ってたのに
俺だけが妬いてると思ってたのに…
椅子に座った俺の前に立つ直輝のお腹へと体を預ける
そのまま背中に腕を回すと腰にぎゅうっと抱きついた
「…監禁は絶対嫌だけど……妬きもちは…嬉しい………かも」
「ふっ素直じゃないなぁ、嬉しいって言えばいいのに」
「……うるさい」
「はいはい、大好きだよ祥」
「俺も」
お腹に顔を埋めながらほんの少しだけ視線を上にあげて直輝を見て答える
馬鹿みたいに優しい目して俺を見下ろして笑っているから心地よくて、柔らかく心臓が締め付けられた
◇◇◇◇◇
「祥本当に入る?」
「当たり前だろ!」
あれから移動してあの教室の前、
直輝が大丈夫かと伺ってくる
もう何度も聞かれたし本当に心配症だなぁ
なんて思いながら笑って頷くと
困った顔した直輝がわかったと言って扉を開けた
「おい、遅いぞお前ら」
「聖夜!」
「聖夜ありがと〜」
教室に入って一番、
壁に寄りかかっている綺麗な金髪の男を見て驚く
そこにいたのは中学生の時から三人で仲良い一人の聖夜だったから
どうして学校に?
と思った時奥から怒鳴り声が聞こえた
「お前ら許さねえぞ!離せ糞が!」
「ずっとこの調子?」
「直輝が来る間は今より煩かった」
怒鳴り声がした方には俺をさっき襲った三人がいて
三人とも何故か後ろ手に拘束されて
三角形を作るように背中合わせに座っていた
「くっそ外れねえしふざけんじゃねえぞ!」
ギシギシと腕の拘束を外そうとしているのか
高田が苛立った様子で罵声を飛ばす
それを見た直輝が俺から離れて
高田達の前に行くと腰をおろして話しかけた
「さっきはどうも」
「っ!てめえ!ゲイ野郎が外せよ!」
「ふっそのゲイ野郎に殴られてぷるぷる震えてた子犬くんは誰だろうね?」
「〜〜〜っ!うるせえぞ糞!」
「はいはい、ところで質問あるんだけど答えてくれるよな?」
「ハッ誰が答えるか気色悪いゲイと口なんて聞きたくねえよ、お前ら何?マジで出来てたんだな一発ヤルぐらいなら小日向は顔もいいし想像より体もマシだったしイケるとは思ったけど流石に付き合えねえわ」
「………」
「男に欲情するお前の頭の中どうなってんの?女遊びしすぎて飽きたとか?だから今度は顔のいい小日向で男遊びか?どっちにしろ気持ち悪いんだよお前ら!同性同士で恋愛ごっことか引くわ」
「へえ、祥の事3人がかりで襲って置いてよく言えたな」
「だから言ってるだろ?遊びの玩具に使うならちょうどいいって女よりも頑丈だしやってみたい事もあるしな、壊れたってどうでもいいだろ?でもやっぱ気持ち悪いよお前ら男のケツ見て欲情は流石に出来ねえしな、お前だって小日向の事ただの性欲の捌け口利用してるだけだろ?」
高田の言葉一つ一つを聞く度に
綿で段々とゆっくりと首を締め付けられたみたいに息苦しくなってくる
分かってたことだけど
実際に目の前で言われると結構きつい
隣にいる俺たちの関係を知っている聖夜が
俺を気遣うようにチラッと横目で見てきたのがわかったから
大丈夫って意味も含めて微笑み返す
分かってたことだから大丈夫
万人に受け入れられない事だって現実も
異性との恋愛が普遍的な世の中じゃ
俺達がしてることってやっぱり異常なんだって事も
だけどやっぱり痛い
ジクジクと心臓が痛みだす
気づいてたけど気づかないようにしていた
現実の声を今正に見せつけられて
目の奥がほんの少しだけ熱くなった
「へえ、気持ち悪いねぇ…」
「ふっああ気持ち悪ぃよさっさと解けよクソ野郎」
立ち上がった直輝が高田を見下ろすとこっちに戻ってくる
なんか、直輝の目今だけ見れない
俺達悪いことしてるとか
やっぱり今ああ言われて直輝が後悔しだしたらとか
色んな事が思い浮かんできて
直輝の目を見るのが怖い
「祥」
「……え…っ、――!」
俯いたまま顔をあげない俺の頭を直輝の手のひらが優しく撫でてくれる
その温度と触れ方がびっくりするぐらい優しくて
言葉は無かったけど
大丈夫だよって言われているみたいだと思ったとき
腰をほんの少しだけ屈めた直輝に不意打ちでキスをされた
「――っ!ンンッ!」
「……」
「ふぁ…っんぅ、直…っん……ぁ…ふ…んぁ」
「祥大丈夫」
「あ…っ!や!…ぅっ…ん…んんっ」
高田達の目の前、
触れるだけのキスじゃなくて舌を絡めてどんどん深くなって行くキスから逃れようとするのに直輝に抑え込まれる
グイグイと押し返していた手首を掴まれ、そのまま手を繋がれて
もう片方の手のひらは俺の髪に指を通して耳を包み込むようにしてキスをしてくる
段々と熱っぽい吐息が混ざり出して
バクバク煩い心臓の音と
クチュクチュといやらしい舌が絡まりあう音が頭の中に響き出して
頭の奥がぼーと惚け出す
「んぅ…っ…ん……ぁん…っ…や、だ…直輝…っ…んーっ」
「可愛いよ」
「んーーっ!あ…っやだぁ…!」
キスの息次ぐ間もなく口内を激しく犯されて足が震えてくる
キスをされたまま一瞬高田達を見ると三人とも黙り込んだままこっちを見て居るのに気づいて
その途端燃えるように体が熱くなった
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