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どうしてこうなったんだろ… 確かにキスする事には納得したし 了承もしたけど 今すぐヘラヘラ笑っては弄んでくる 直輝に噛み付いてやりたい 水族館に向かう途中 直輝に言われた言葉が思い浮かぶ 「俺が人差し指で唇をトントン、てしたらキスの合図な」 「え?!」 「何か問題あった?」 「い、1回だけだよな……?」 「ふふっ」 ニンマリと、直輝の切れ長で涼しげな目元がお月さまみたいに弧を描く うわぁ…絶対俺にとって良くない返事だ… その考えは見事に当たって 聞かされた答えに心の底から後悔した 「違うよ、1回だけじゃない何回も」 「…………」 「今更取り消しは無しだよ祥」 「……わかってる」 「いい?俺が人差し指で唇に触れた祥は何があっても、誰がいても、どんな場所でも俺にその場でキスしなきゃお仕置きするから」 「――っ?!」 「ん?それともお仕置きのが嬉しい?」 「〜〜〜っ!調子乗るなよ変態!」 「その変態と付き合ってるのは祥だろ?」 「うるさい!」 「エッチな事好きなくせに」 「もーっ!本当にうるさい!!」 「あははっ」 そうやって直輝に説明されて 水族館についたわけだけど じっと直輝をジト目で見つめていると ん?と首を傾げて嬉しそうに見返してくる なんだよ馬鹿… いつもより嬉しそうにしちゃって… そんな顔されたら俺怒ってるの馬鹿みたいじゃん 「祥」 「……なんだよ」 「キスしたいの?」 「なっ?!」 「だって俺の事さっきからそんなに熱い視線で見てるけど」 「お前……ほんとに…………」 「ふふっ祥大好き」 「…もういい行くよ」 「あ、待って」 「今度は何…?」 これ以上話しても無駄だと思って後ろを向いたとき直輝に背後から腕を掴まれた 何かと思ってため息こぼしながら振り向くと ムカつくほどに整った顔した直輝が嬉しそうに笑いながらトントンと唇を人差し指でなぞっている 「――っ?!」 「じゃあ早速、練習兼ねて、ね?」 「む、無理っ」 「なんで?」 「こっこんなに人いるのに…見られるだろ!」 「大丈夫、ここ暗いし逆光だから見えないしこっちには誰も興味持ってない」 「〜〜っだからって」 「祥、キスして?」 「うぅ……っ」 「祥からして欲しい」 「〜〜〜っ、……わ、わかったよ…っ」 「ふっありがとう」 「目つぶって!」 「うん」 本当なら外でなんて絶対しないのに 本当に嫌なら何があっても絶対しないだろうけど、直輝がこんなに嬉しそうに笑うからキスぐらいでこんなに楽しそうにするから なんかそういう直輝珍しくて可愛いって愛しいって気持ちが溢れてくる いつも涼しい顔して余裕綽々で飄々としてて だけど根は真面目で落ち着いてるやつが どっちかって言えば俺の方がいつもはしゃいでて直輝が見守ってる感じなのに 今日は直輝の方が楽しそうで少し機嫌もいつもより良くて そんな顔するの滅多に見れないから心臓もやけにうるさいし 直輝が好きで好きで堪らない でもキスがほいほいできるかって言われるとそうじゃなくて… 目の前に目を閉じてほんの少し腰をかがめてくれた直輝の整った顔を見つめると怖気づいてしまう 恥ずかしくて緊張して いつもどうやってキスしてたっけ… なんてことまで考えちゃって このままじゃ逃げ出しそうだったから 覚悟を決めてキスをすることにした 「んっ!」 「痛ッ」 「――ッ!」 ほんの少し拗ねた気持ちでしたせいか 勢いをつけすぎてキスってよりは事故みたいに唇がぶつかりあう おかげで唇はヒリヒリするし 目の前の直輝は痛みに驚いているし 何一つスマートにこなせない自分自身が恥ずかしくて堪らない 「ぶっあははっ!」 「〜〜〜っ!」 「祥本当に可愛いね?」 「う、うるさい!今のもちゃんとしたキスだからな!」 「まあ天邪鬼が頑張ってくれたって事で許してあげる」 「……っ」 「今時中学生でも、もうちょっと色気あるキス出来ると思うよってのは言わないでいてあげるよ」 「言ってるじゃん……」 「あははっついつい、ごめんね?ピュア祥ちゃん」 「〜〜〜っ!もういい!俺先行く!」 「ふはっ首まで真っ赤だよ?」 恥ずかしい、恥ずかしい…! 俺だって思った 今のキスはかっこ悪すぎることぐらい自覚してるのに わざわざ口に出さなくていいのに それでも意地悪で言ってくる直輝にムカっとする だけど隣で歩く直輝が優しく頭撫でてくるから そっぽ向いていた視線をチラッと直輝に向けると 付き合ってなきゃきっと一生見れることもなかったあの優しい顔して俺の事見てきてるから 怒ってへそ曲げてるのとかなんか 嫌だなって思ってほんのちょっと罪悪感も生まれて もう怒ってないよって教えるために ちょん、って直輝のカーディガンの裾引っ張ったら それに気づいた直輝がもっともっと笑うから心臓が痛いくらいぎゅーって締め付けられた

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