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考えるのを辞めて黒い高そうなソファに座ると直ぐに眠気が襲ってきた うつらうつらしていると耀さんがマグカップを持ってきて横に座る 「ほら飲め」 「……ん、なにこれ」 「俺特製ブレンドよ〜」 「ふふっ、いただきます」 甘い香りのする暖かな湯気がたっているマグカップに口をつける 猫舌だからフーフーと冷ましてから少しだけ飲むと柔らかい甘い味が広がった 「うまいか?」 「…うん、おいしい〜」 「そっかそっか、いくらでも作ってやるから飲め!」 美味しいって言葉やっぱり嬉しいのかな… 屈託なく笑いかけてくる耀さんの笑顔を見てそんなことを思った 黙って居れば知的でクールに見える耀さん だけど口を開くと壁がなくて誰とでも仲良くなれそうな子供っぽい耀さん 意地悪な耀さんも、料理を褒められると嬉しそうに笑う耀さんも 一日で色んな表情を見た 「ご馳走様」 「あいよ〜」 「……………」 「ぶっ、何緊張してんだー?」 「してないよ」 それと耀さんは結構直ぐに俺の変化に気づく 多分今だってどうしようかなって思った事は顔には出てないはず 今迄だって何考えてるか分からないって言われてきたし あんまり上手く相手に気持ちが伝わった事もなかったけど 耀さんには直ぐに気づかれた 「ぼーとしてねえで寝な」 「…いや、いいよ折角の休みなんだし耀さんゆっくりしなよ」 「アハハっ今更気使ってんなよ」 「…………」 「それとも一緒にベットでイチャイチャするか〜?」 「……いい歳して何言ってんの」 「………そんな目やめて…おじさんだって人恋しくなるの…」 「ふふっ本当耀さんってどっちが本当の顔なの?」 「どっちって何をよ?」 「………何だろうね〜」 「…変な奴だな瑞生」 「……耀さんには負けるよ」 クスクスと笑い合いながらソファの上で話す いつもとは違うこの空気が初めてでくすぐったかった 「瑞生眠いんだろ?寝室使っていいぞ」 「…耀さんは」 「俺はここで寝れるから気にすんな」 「………」 「お前ズケズケいう割にこういう所は気にし屋さんだなー」 耀さんはあははっと笑いながら俺の髪をぐしゃぐしゃと撫でる 「ほら行くぞ」 「え?」 「お前一人じゃ行きそうにもねえから俺も一緒に寝室で寝るわ」 「…えーやだ」 「はあ?!なんでだよ?!」 「男二人でとかやだよ、暑苦しいし」 「この野郎!」 わざとからかうようにそう言えば耀さんが冗談でまた締めあげてくる ケラケラと二人で笑ってるとひょいっと耀さんに担ぎ上げられた 「えっ!ちょ、歩けるよ!」 「瑞生軽いな」 「そんなわけないでしょ、俺もそれなりに体重あるし」 「その割にはほせえな」 「………うるさいオジサン」 「傷つく!お前なぁそれは傷つくよ?!」 寝室にたどり着いてベットの上に降ろされた 壁側に俺を押し込むと耀さんも布団に潜ってくる 「……」 「ん?何見てんだ?」 「耀さんの刺青かっこいいよね」 「どーも」 にいっと耀さんが笑って俺を引き寄せる 「ちょ、暑いってば」 「いいじゃんよー今日だけ今日だけ」 「………その代わり今度なんかご飯作ってね」 「おーいいぞいくらでも作ってやるよ」 そしてまた笑う耀さんに頭を撫でられて 大人しく腕枕をされながら目を瞑る なんだか本当俺らしくないとは思う さっさと帰るべきなのに何だかんだいって一緒にいるし サラッと未来の約束するみたいな事言っちゃったし 1回ヤったら終わりにしようと思ったのに何か耀さんとはまた会いたいって思った 祥のことで少しだけ弱ってんのかなぁ〜 なんて思いながら考えるのがまた面倒になってそのまま頭を撫でられる気持ちよさに体を委ねて眠りについた ◇◇◇◇◇◇ あの日耀さんが寝ているのを見て静かに一人で家を出た そしてあれから一週間過ぎて なんとなく耀さんのお店によってみた 「いらっしゃいませ」 「………こんばんわ」 「お、なんだ瑞生かよ〜」 「…………」 「なに突っ立ってんだ?座れよ」 「……うん」 耀さんは俺を見ても全く動じることなく席へと案内する BARの時間だからお客さんは静かにお酒を飲んで楽しそうに話をしていた 暗い照明に落ち着いたシックな店内がやけに緊張させる 「何飲む?」 「んー決めてない」 「なら俺が作っていいか?」 「うん」 耀さんは分かったというと何やら早速カクテルを作り出した 「……来るとは思わなかったわ」 「うん、俺もまた来るって思ってなかった」 「起きたら瑞生いねえし、お前猫みてえだから二度はねえと思ってたけど」 「………俺気まぐれだからね」 「全くだな」 耀さんはケラケラと笑うと俺にスクリュードライバーをくれた 「あ、俺これ好き」 「おお良かった」 作られたカクテルを口にすると他のお客さんに呼ばれて耀さんがカウンターを離る …………俺、なんで来ちゃったかな〜 ぼんやりと虚空を見上げて飲んでいると隣の人に話しかけられた 「君さ、耀と知り合い?」 「……知り合い、だと思います、多分」 「ふふっ、君カクテルにも意味があるの知ってる?」 「え?」 「花には花言葉が、酒には酒言葉があるんだ」 「…………」 「今耀が君にあげたそのお酒の酒言葉気にならない?」 「……そう、ですね」 「だろ?なら耀が戻ってきたら聞いてみな」 「え…」 貴方が教えてくれるんじゃないのかと思い聞き返そうとしたとき耀さんがタイミング悪く戻ってくる 「おっ飲み友達できたのか?」 「僕の悪知恵を彼にね」 「おいおい辞めろよな〜」 仲が良さそうに話している二人を見て口を開く 「…耀さん」 「んー?」 「………カクテルって酒言葉あるんですか?」 「…おう、なんだぁ?こいつから聞いたのか?」 「………そう、あのさあの日俺に作ってくれたカクテルにも意味があったの?」 「………」 「あったんだ」 「一応な」 「聞きたい」 「あー…メリーウィドウの酒言葉は『もう一度素敵な恋を』だ」 「………ふふっ何それ」 笑って返したものの、やっぱり耀さんには失恋したってバレてたんだと確信して内心そわそわとした 「でも美味かったろ?」 「…美味しかったよ」 「ならいいじゃねえか」 ふいっと耀さんが顔を背けて急にグラスを磨き出す いつものヘラヘラとした空気がない耀さんを見て何だか心が弾んだ 「……耀さん」 「なんだよ、また何か質問か?」 「うん」 「はぁ〜、んで?次は何だ?」 「…これは?今耀さんが俺に作ってくれたスクリュードライバーは?」 「……………」 「これは何の意味があったの?」 「…大人をからかうんじゃねえよ」 「からかってないよ、聞いてるだけ」 じっと見つめている俺に耀さんは気まずそうに目を逸らす でも俺もずっと見つめていると耀さんの口が微かに動いた 「…………れた」 「え?」 「貴方に心を奪われた」 「…………」 目を見なかった耀さんが 急に真っ直ぐに目を見てくる そしていつもの緩い空気じゃなくて 初めて会った日のようにクールで 大人の色気を含んだ表情でそう呟いた 「……へ〜そんな言葉があったんだ」 「…満足か?」 「うん、満足した」 「ならもう黙って飲め」 「うん、これ飲んだら帰るね明日朝から美容室でバイトなんだ」 「おう大変だな」 横を向いて表情が見えない耀さんを見ながらカクテルを飲み干す お会計をしてお店の外まで見送ってくれる耀さんにご馳走様と伝えた 「気いつけて帰れよ」 「うん、ありがとう、耀さんもお仕事無理しないでね」 「おう!」 腰に手をつきヒラヒラと手を振る耀さんを見て足を踏み出す へら〜っと笑っている耀さんのシャツを掴み手繰り寄せていつも笑っている耀さんの唇にキスをした 「ーーーッ」 「……」 「お、まえっ」 「嫌だった?」 「……あのなぁ」 「さっきのお酒ってあれ耀さんの気持ちとは無関係?」 「…………」 「それとも俺が想像したので間違いない?」 「……全くお前は………間違いじゃねえよ」 「ふふっそっか」 「………」 「俺の返事は、さっきのキスだよ」 「〜〜〜っ、瑞生お前ほんっとに」 「なに?」 「…ああ〜、俺もとんでもねえやつにハマっちまったな」 「でも嫌いじゃない、違う?」 「ああ、嫌いじゃねえな」 困ったように笑った耀さんが俺に近づいてくる 顎に指を添えて俺の顔を上に向かせると 耀さんがふっと笑って俺にキスをした 「野良猫は長くは懐かねえからな」 「………」 「無理矢理飼い慣らすしかねえよな」 「出来るなら、だけどね」 「言うじゃねえか」 「あははっ痛いよ」 むぎゅっと頬を挟まれる 別に好きとか言われたわけでも俺も好きなわけでもないけど 嫌じゃない 耀さんに手懐けられるのは悪くないかもって思った 俺が知ってる耀さんの顔なんて少しだろうけど大人なのか子供なのか、それが偽物なのか本物なのか 翻弄する耀さんと居るのは好きなお酒を飲むよりも魅力的に思えた 耀さんに酔わされるなら酔ってみたいかもしれない 未だそんな感情になったことない俺に この人ならそうさせてくれるかもしれない そんな変なふわふわとした気持ちが胸に溢れたからそうしてみただけ 本当にフラフラしてる俺らしい理由だけど それを分かっていて咎めない緩い耀さんは好きだった 耀さんとの不思議な関係が始まった夜は 夏の匂いに包まれた熱い体温とアルコールと煙草の香りが混ざった夜だった ──────────── ブランデー・エッグ・ノッグ 《出会った二人》 〜完〜

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