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【番外:カガミズ編02】ライジングサン

────ライジングサン * * * * 「瑞生ーもう上がっていいぞー」 「オーナー、これだけやっておきますよ」 「お前はほんとにしっかりしてんなぁ~」 「ふふっありがとうございます」 「ま、相変わらず食えねえやつだけど」 閉店時間をとっくに過ぎた店内 先輩達に混ざって練習の手伝いをしていたらオーナーに声をかけられた 洗い物だけ済ませる事を伝えると 少しだけ心配そうな顔をしたオーナーがそう言ってスタッフルームへと戻っていく 「瑞生さん!」 「どうしたの祥?」 「今日この後空いてますか?皆でご飯行こうって」 「あ、今日は俺約束あるんだ」 「え!珍しい…」 「ふふっそれ俺の事バカにしてるの?」 「っ?!してないです!」 ブンブンと首を振って否定する祥の頭をポンッと撫でる 「皆で楽しんでおいで」 「……今度は瑞生さんも行きましょうね!」 「うん、そうしよ」 頷いて答えると祥がにっこりとお花みたいな笑顔で笑う 可愛い、って思わないわけじゃない だからってまだ好きかって言われると それも何か違うようなそんな良く分からない感じだ さっさと洗い物を済ませて支度をすると 荷物を持って店を出る これから向かう先は今さっき祥達の誘いを断った理由である人の元だ チラッと時計を見て連絡を入れようか悩む だけど何故か連絡する気にもなれなくて携帯をしまい込む 待ち合わせ時間なんてあるようで無いようなもんだから、時間はとっくに過ぎてるけどまあ構わないだろう 結局、目的の場所へ着いた時には予定の時間より2時間も過ぎていた ピンポーン インターホンを押してじっと待っていると 中から緩そうな声が聞こえてきた 「あいあ~い」 「………こんばんわ」 「お、来たのか~」 「約束してたしね」 「ぶはっ瑞生の口から約束だなんて一番似合わねえ言葉じゃねえか?」 「………ねえ、それよりも部屋で話さない?それともここで話したい気分なの?」 「おっ悪い悪い、ほら来いよ」 「お邪魔します」 悪いな~とヘラヘラ笑いながら言う耀さんの家へとお邪魔する 相変わらず所々散らばっていて 服がぬいだまま置いてあった 「…耀さん服脱ぎっぱだよ」 「ん?あー悪いな!ありがとう!」 「俺家政婦じゃないんだけど」 「あははっ」 知的そうな目元を垂れさせて 太陽みたいに耀さんが笑う これも毎度のことだけど いつも耀さんの家に来る度に部屋を片付けていた 「泊まって行くだろ?」 「仕事は?」 「平気だよ、気にすんな~」 「じゃあ泊まる」 洗濯物畳んでいると後ろから耀さんに声をかけられて それに答えると座っている俺に、 立ったままの耀さんが腰を屈めて背中側からオデコにキスをしてきた 「………そこだけ?」 「ふっ」 「俺は唇にしてくれるの待ってたんだけど」 「俺はその言葉を待ってたよ」 「餓鬼」 「餓鬼は瑞生だろ?」 「そうだね、耀さんは親父だったや」 「この野郎!歳は気にしてるんだから言うなっての!」 悪戯に笑うと耀さんがムッとして押し倒してくる 俺も抗う事無く後ろに倒れ込むと耀さんのキスを受け入れた 「ん……っ…ふ…」 「瑞生いい匂いすんな」 「んぅっ…それ、いつも言ってる」 「そうか?」 「そうだよ、物忘れ酷いんじゃない?」 「まーたお前は!この野郎お仕置きしてやる!」 「あははっ!やめっ…くすぐったいっ」 足のあいだに体を滑り込ませた耀さんが乗り上げたまま脇腹をくすぐりあげてくる ビクビクと体が震えて耀さんの指が蠢く度に笑いが止まらない 「ふふっ、ちょ…っも、ごめ…っ…あっん」 「悪い…」 「…はぁ…っはぁ……」 俺も耀さんもお互い動き回っていたから イヤらしい意味なんてなくて不意に指が乳首を擦りあげたとき思わず変な声が出てしまった 「………耀さん」 「ん?」 「終わり?」 「ふっ終も何も飯食って寝るだろ?」 「………そう」 「ほら、早く立たねえと瑞生の分作ってやんねぇぞ~」 「…………」 パッと立ち上がった耀さんが俺の頭をクシャクシャと撫でてキッチンへ向かう 俺も起き上がるとドクドクと煩い心臓の音を沈める為に水を一口飲み込んだ はっきり言って腑に落ちない あの日以来、俺と耀さんはセックスをしてない あの時確かに俺は耀さんにキスをして 耀さんのこと受け入れた筈だ しっかり言葉で耀さんに好きって言われてはないし、この関係自体一体なんなのか 週に2回耀さんの家にこうやって泊まりに来てはダラダラ一緒に過ごすだけ キスはするけどエッチはしない 一線を超えてはいるけど告白はされてない 現に俺だって耀さんの事好きなわけじゃない ただ、耀さんに翻弄されるのはいいなぁって気に入ってるってだけだ だから俺達の関係はセフレでもなけりゃ 恋人でもなくて、友人かと聞かれれば否定も肯定もできない 名前のつけられない関係がここ1ヶ月以上続いていた 「ねえ耀さん」 「んー?どったよ~」 「耀さんって俺のこと好きなの?」 「ッ?!げほっげほっ」 「…………大丈夫?」 「お、っまえ……またなんでそんな突拍子もなく」 「気になったから、俺達の関係が」 「そんなに関係が大事か?」 「え?」 「この繋がりはこうだ、っていう名前が欲しいのか?」 「…………」 「名称よりもそこにある形が答えだろ、友達だって言ったって中身が無けりゃなんの意味も持たねえのと同じだろ~」 「じゃあ俺達はただ週に2日耀さんの部屋に遊びにきて一緒にご飯を食べて一緒のベットでたまにキスをする、だけどセックスはしないそんな関係?」 「あ~………ま、そう言う事だな」 「ふーん」 「んだよ、機嫌悪いな」 「そんなことないよ?」 「笑顔が怖いっての」 「俺笑う事しか出来ないから」 「……」 「…………お風呂入ってくる」 「おう」 ああー気まず…… 何今の空気 まるで別れ話でも始まった恋人同士みたいだった さっさとお風呂で洗い流して切り替えよう

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