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06
「瑞生君、また会ってくれるか?」
「ふふっいつも思うけど、後藤さんって外だと本当に人が変わるね?」
「どういう意味だ?」
「俺の前ではさっき迄泣きそうな顔してたのに」
「〜〜〜〜っ?!」
「気づかないとでも思った?」
「み、瑞生君!!」
「ごめんね、また会えるよ電話して」
「本当か……?」
「うん、本当に」
ホテルを出てそういう店が立ち並ぶところから離れた場所で後藤さんと話す
このあと、後藤さんはまだ仕事があるらしい
もうすっかり夜なのに生真面目な人には時間なんて関係なく休みなんてないのだろう
体調を崩さないかだけ心配で
寝れる時はしっかり寝るんだよって約束をしている時
ふと後ろから聞き覚えのある声が聞こえた
「っだぁ!怜!離れろ!」
「ああんっいいじゃないケチ」
「ったく本当に」
「んふっでも迎えに来てくれると思ってたぁ〜」
騒がしい話声に後ろを振り向くと
俺の視界に入ったのはやっぱりあの人で
その横にはロングヘアーで背の高く綺麗な女の人がべったりと腕を組んで歩いていた
「おい、怜!少しは………、…っ…!」
「なあに?耀」
「………あ、嫌なんでもねえ」
「ふーん」
前から歩いてくる耀さんが俺に気づくなり
一瞬だけ驚いた顔をする
だけど直ぐにいつもと変わらない表情へと戻ると、静かに手を挙げて挨拶をしてきた
「久しぶりだな瑞生」
「ほんとだね、元気にしてた?」
「ああ」
「そう」
「………隣に居るのは?」
「後藤さん、俺が良くしてもらってる人だよ」
すれ違う数歩手前で立ち止まった耀さんに声をかけられる
そのまま俺の事なんて無視して行けばいいのに耀さんって本当お人好しっていうか、馬鹿だな
「あれ、あんた確か……」
「…どこかでお会いしましたか?」
「いいえ、あたしの間違えみたいねぇ!こんなにかっこいい子、あたしが忘れる筈ないもの」
「ふふっどうも」
耀さんの腕に抱きついている美人な女の人が俺を見てそういう
俺自身もこんなに派手な人に会ったなら
覚えて居るはずだけど記憶にないってことはきっと会っていない
「初めまして、あたしは怜よ」
「俺は瑞生です、よろしく」
「んー瑞生くんねぇ、覚えたわよ!耀とはどんな知り合い?」
「………」
「おい、怜」
「いいじゃないのよ!あたしは耀の恋人でしょ〜?」
「なっ?!」
「………………」
「ふふっ照れちゃって可愛いわねぇ〜」
「おまえ…」
「…へえ…そうなんですね、お似合いですよお二人とも」
「あらやだーっ嬉しいっ!だけど、あたし瑞生くんに乗り変えようかしら」
「ありがとうございます…あ、まだ話してたいんですけど俺後藤さんと行くところあるんで失礼します」
「ああ〜ん!もう行っちゃうの?」
「はい、またお会い出来たらその時にお茶でも奢りますね………じゃ慧吾さん?行こ?」
「あ、ああ」
「………耀さんもまたね」
「……おう」
俺達の会話に入れず後ろでぼーとしてる後藤さんの手を握ると歩き出す
耀さんの何か意味が含んである視線がジッ、と俺を見ていたのは分かっていた
だけど何も言う気にもなれない
いま目の前で付き合ってる二人を見て、逆に俺から何の言葉を待ってるって言うんだ
お似合いですね、ってさっき伝えた言葉本当にそう思った
耀さんかっこいいしモテないわけが無い
中身はちゃらんぽらんだけど
見た目は知的でクールだし
落ち着いてて大人だ
俺なんかと切れて良かったって事
現に今ああして隣に好きな人と並んで歩けている
あの日、俺との関係が無くなったのは良かったことなんだ
「瑞生君」
「んー?」
「今のあの、男の人、誰なんだ?」
「ああ耀さん?」
「そうだ」
「あの人は………うーん親?」
「親?」
「そう、親」
「え?!」
「ふふっ後藤さん間抜けヅラになってる」
「え、え?今の人が瑞生君の…え?!」
「あははっ嘘だよ、親みたいに接してくれた人、ただそれだけ」
「……ほんとにか?」
「うん、ほら後藤さんタクシー待ってるよ」
「…………」
「後藤さん?」
「……瑞生君」
「ん?」
「…いや……なんでもない、今日はありがとう」
「いいえ、俺こそありがとう」
呼んでいたタクシーの場所まで後藤さんを送って、車に乗り込み発進するまで見送る
そっか、耀さん好きな人居たんだな
どちらにしろ俺はあのまま隣にいたらただの邪魔者になってたんだから
そうなる前に離れて良かった
なんだか腹の奥が重い
そのままぼんやりと立ち止まったまま
暫く歩く人達を眺めてから俺も一人家へと帰った
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