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07
耀さんと鉢合わせたあの日から一週間後、
目の前に座る彼女とまさか本当にお茶をするとは思わなかった
「ねぇ?ところで瑞生くん」
「はい?」
ニコニコとご満悦そうに微笑み呼びかける彼女へと笑顔を向けた
バイト先近くの洒落たカフェ
学校が終わって、バイト先に用事があったから近寄った駅前で本当にばったりと遭遇したんだ
耀さんの彼女である怜さんに
「瑞生くんは彼女いないの?」
「ええ居ないですね」
「へぇ…ならあたしなんてどうかしら!」
「ふふっ怜さんには耀さんが居るでしょ?それに俺縛られるの嫌いなんでまだまだ先の話になりそうです」
誘うような視線を向けてくる怜さんへ微笑み返す
そのままの状態でいると、
ふと彼女が吹き出した
「ふっあははっ」
「………」
「瑞生くんって食えないタイプね」
「よく言われます」
「ならまどろっこしい事は辞めてハッキリ言わせて貰うわ」
「なんですか?」
「あんた、耀と寝たでしょ?」
「…………」
「嘘つこうだなんて考えてるなら辞めなさい、そんなもの直ぐに見破れちゃうんだから」
そう話す怜さんの口調は軽くても
俺を見る瞳は鋭く重い
カランと怜さんが頼んだアイスティーの氷が溶けてぶつかりあう音が耳に届いた時
俺もゆっくりと口を開いた
「軽蔑しますか?」
「いいえあたしがそんな小さな女に見える?」
「見た目じゃ人は分からないんで」
「生意気ね」
「耀さんの事、嫌いになりますか?」
「耀を?あいつの浮気癖は今に始まった事じゃないの、一々目くじら立ててたら老けちゃうわ~」
「そ、ですか…」
何故なのか心底ホッとした
何となく初めから怜さんが俺に何か言いたげなのは気づいていた
もしかしたら一線を超えてることに
気づいているのかもしれないってことには最初の方で覚悟してたけど
いざこうして言われるのは結構心臓に悪い
でもそう言うことだけじゃなくて
耀さんと怜さんが俺のちっぽけな存在で揺れるほど脆い関係じゃないんだって事に心底安心したんだ
「なに少し嬉しそうなわけ?」
「そんなことないですよ、それで俺にはどんな制裁を与えに?」
「制裁ってほどでもないわ」
「だけどそのままにするつもりもない、でしょ?」
「あたし頭がいい子タイプなの」
「へえ」
「今日あたしと寝て頂戴、ね?いいでしょ?」
「…………」
「耀と寝たなら、あたしとも寝てそれで今回のことはチャラにしてあげる」
「……それは、どうして?」
「あら分かってる癖に言わせる気?」
「………わかりました、耀さんには言わないつもりですよね?」
「もちろん」
まさかこう来るとは思わなかった
プライドが高いだろうとは思ったけど
美人の考えてる事は恐ろしいとさえ思う
俺に憎まれ役になれってことだ
耀さんが付き合ってる女性と寝るってことは、その瞬間から俺は敵になる
自分が浮気するのと、その浮気相手に真剣に付き合ってる人と寝られるのは大いに違う事だから
不安分子はとことん潰して置くタイプかこの人
「あらやだ、そんな怖い顔しないでよ」
「してませんよ、寧ろ喜んでます」
「お世辞も言えるだなんて、やっぱり耀なんて捨てて瑞生くんと付き合おうかしら」
「俺には勿体無いですよ」
「んふふ、さあ話も纏まったし早速ホテル行くわよ」
「……ええ」
立ち上がる彼女に続いて俺も席を立つ
化粧直しをしてくると言ってトイレへと消えた怜さんを確認すると、そのあいだに支払いを済ましておいた
案の定帰ってきた怜さんは流石と俺の肩を叩くなり、意図してした事を理解した俺に対して満足そうだ
傍から見たらただ仲が良さそうに歩いてると見えたとしても実際のところはその反対なんだから
本当、人って見ただけじゃ分からないものだ
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