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2つ上の兄は中学校も勿論私立に通っていたし
俺も例外なくその準備をさせられていた
小学5年生になってからは特に勉強の時間が増えて塾に通う日が多くなった。
でもそんなある日新しいお父さんに呼び出されてリビングへと向かう
部屋に着いてソファーに腰掛けるその人の前に俺も座ると、静かに話し出した
「瑞生君は受験をしなくてもいいよ」
「え?」
「もっとやりたい事とかあるだろ?」
「……やりたい事……?」
「そう、友達と遊んだり、色々」
「…………」
何を今更
そのとき確かそう思った
言いたいことはそれじゃないだろ
俺はあんたの子供じゃないから
好きにしなさい
なんなら早く家を出て行きなさい
それが言いたいが為に呼んだくせして
子供だと思ってそんな言い回しで納得すると思われてることに腹が立った
だから、俺も私立へ行きたいと言ったんだ
驚いていたけど
そう言うならって最後は納得してくれた
ただ黙って家を出るつもりは無いって
少しでも嫌がらせしてやりたいようなそんな意地汚い気持ちから言った言葉だ
それから暫くして俺の父さんの命日を迎えた日
母さんの本音を知る
一緒に墓参りへ行こうと誘ったあの日の事は今でも鮮明に覚えている。
あの人はケラケラと愉しそうに笑いあげて俺を見て口を開くと信じられない事を言った
「瑞生のお父さんはこの家に居るでしょ?」
「え?」
「貴方のお父さんはその人じゃない」
「待って……どういう意味?」
「いつまで過去の男をそう呼ぶの?」
「……母さん?過去って……父さんだよ?俺の血の繋がった父さんはあの人だけだ……ッ」
「顔もろくに覚えてないでしょ?」
「だからなに……? 覚えてないから俺の父親じゃないって? 母さんの愛した人だろ?!」
「ふふっ、瑞生ー……愛なんてないのよ」
「……え?」
「結婚に愛なんてものは無いの。 瑞生ももう小学6年でしょ? いつまで子供の気分で居るの? いい加減分かって頂戴」
「な……にを……」
「私はあの人を愛してなんかないし、今必要なのはあの人じゃないの」
「――ッ」
いつもの様に変わらず笑う母親の笑顔が怖くて堪らない
そっ、と伸びてきた両腕に抱きしめられても何も感じなかった
ただスーッと冷えていく自分の感情だけがくっきりと体に残る
「でも瑞生の事は好き」
「……え?」
「瑞生はね、お母さんが唯一好きだったあの人の顔にそっくり」
「……か……お?」
「ええ、それに頭も良いし私の邪魔をしない。 何より私の一番の見方でしょ?」
「……」
「……なんで……母さんは俺を連れて再婚したの……」
「聞きたいの?」
「……教えて」
「子供を連れて早くに旦那を亡くした方が、可哀想に見えるでしょ?」
「…………」
どうしてこの人はこんなにも綺麗に笑えるんだ……
口から出た言葉が信じられないくらい
純粋に笑う母親を見て身体中が氷の水に突き落とされたみたいに冷えていく
この人から俺が生まれたんだと思ったらゾッとした
今目の前で血の繋がった息子にこうも安々と事実を口に出来る人と親子なんだ
母親にとって俺は利用出来るかそうじゃないか、賢いかそうじゃないかだけのただのお人形同然だった
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