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燃えて黒いただのゴミに変わった
大切なモノだった残骸を見て腹底にグルグルとした何かがセリ上がる
ここまでされる事を俺はした?
男版娼婦だの売春してるだの
そんな有りもしない噂を立てられても構わなかった
言われるまま女の子と付き合ったし
誘われるまま女の子と寝たし
そう罵られても仕方ない事をしてる
だから事実だからなんと言われても
汚いと罵倒されても恨む気持ちも無かった
だけどこの事だけはどうしても許せないって
初めて自分の中に煮える様なものを感じる
2人が写真を燃やして愉しそうに
笑ってる時俺は何度叫んだ
どれだけ辞めて欲しいって懇願した
何度プライドを捨てて縋った
それでも、たった一つだけの大切なモノさえいとも簡単に奪われた
なら俺だって奪ってやる
2人が大切にしているモノ絶対に奪って最後には捨ててやる
そう決めてからは
毎日そればかり考えていた
笑う事も億劫でしなかったけど
また愛想笑いをする様になった
好きでもない家族に愛嬌を振りまいて
距離を縮めていく
可愛げのある俺を新しい父親は
馬鹿な程かわいがりだした
それは俺があの人の忠実な犬で
利用価値があったから
言われるまま成績を伸ばして
求められることを自らした
母親にも兄にも弟にも尽くした
高校3年間をかけて全てを捧げた
決めたその日まで耐えるんだって
それまでは俺はこの人達の奴隷になるって
何があっても何をされても笑ってきた
それからやっと俺が全てから解放される日が来た
受験の日いつもの様に
家を出て試験会場に行くふりをしてバックレる
俺が帰ってきた頃にはそれはもう酷く混乱していた
俺に相当期待していてくれただけに
父親の荒れ具合は酷かった
宥めようとする兄の言葉は父親の逆鱗に触れ
父親は自分の背中を追いかけていた兄に向かって罵倒をする
「父さんには俺が居るだろ?!」
そう言って父親に触れた息子の手を叩き払って一番言ってはならない事を口にした
「志望校にもまともに行けないお前には期待なんかしていないっ!」
ずっと、父親の陰に隠れて必死に
勉強ばかりをしていた兄は悲痛な顔をして父親を見上げていた
それから次に愛してもらえる事が
当たり前の弟にも真実を伝える
どっぷり全身惚れ込んでいる弟の彼女は
俺が仕組んだ女の子だって
ゲーム感覚として乗ってくれた
知り合いの女の子と裏で手を組んでいたと
そんなわけ無いと自信満々で話す弟に
なら確かめてみろとだけ教える
簡単な挑発にも乗る弟は
俺の前で証明してやると生き込んで電話をとった
それから説明をして暫く電話を切った弟は顔面蒼白したまま動かない
真実はどうだった?
そういつもと変わらない笑顔で聞く俺に
弟が殴りかかってくる
唇が切れて口の中に血の味が広がったとき
吐き気がこみ上げた
俺も生きてる
無いものとして扱われて来たけど
何も感じることもなく淡々と過ごして来たけど
俺の体にも血は巡っているし
俺の心臓は今だって動いてる
その事実が気持ち悪くて仕方ない
めちゃくちゃになった家を飛びだして
行く当ても無くはしりだす
どこでもいいから
兎に角あの家のやつらから離れたかった
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