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有りもしない嘘をついて 意地悪だと思っていても受け取らない 今は人に優しくされたくない こんなどうしようも無いのに 人の好意に触れたくない 「ごめんなさい!嫌でしたよね……」 「……大丈夫。 それより早く帰りな家の人心配するだろ」 「…………」 すみませんと言って慌ててマフラーを取ったその子を見て帰れと促す 早く1人になりたい そう思った時、その子はベンチに腰をかけた 「……何してるの?」 「俺もまだここに居てもいいですか?」 「勝手にしたら」 「……ありがとうございます」 好きにすればいい 公園は俺の物じゃないし このベンチに座るために手続きが必要なわけじゃない 彼がここに居るなら俺は他のところへ行くだけだしどうでもいい 「小日向祥って言います」 「は?」 「俺の名前です」 「……あ、うん」 「潔癖症だって聞いたから名前言ったら大丈夫かなって……」 「何が?」 「もう、名前も知ったから……マフラー触れますか?」 「…………」 「まっまだ駄目ですよね!ごめんなさい!」 恐る恐る尋ねるその子は 捨てられた子犬みたいに困った顔をしていた なんか調子狂うなこの子 頼んでもないのに マフラー貸そうとするし 聞いてもないのに 自己紹介は始めちゃうし お願いしてもないのに 世話を焼こうとするし 「ふっ大丈夫だよ。 君が使いな」 「え?でも……」 「寒いのは君だろ? 震えてる」 「あっ!」 カタカタと細い肩が小刻みに震えてる どう見ても寒そうにしてるのはその子なのに しかもバレて無いと思ったのか 俺に言われて顔を真っ赤にしている 「俺なら大丈夫だから、えーっと名前……」 「小日向祥です」 「あぁ祥君。 祥君が使いなよ」 「……」 「いいよ、寧ろ今は寒いぐらいで丁度いいんだ。 頭冷やしたくて外に出たから」 「……はい」 おずおずとマフラーを巻き始めるその子を見て何だか笑みが零れた 親切にしたけど、その好意を受け取って貰えない時のあの恥ずかしさを感じているんだろう ほんのちょっとだけ唇を突き出して 顔を赤らめている 1人になろうと思ったのに タイミング失ったなぁ。 でもまあこの子少し面白いしいいか 居ても居なくても構わないんだし 時間になれば帰るだろう そう思って居たのに 俺はいつの間にかその子と馬鹿みたいに話をしていた これが俺と祥の初めての出会いだった

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