もう２度と会うことが無いから聞けた 彼ならどうするんだろうって 俺とは違う真っ直ぐなこの子はどう思うんだろう 「俺が両親に愛されてなかったらですか？」 「うん、もしもの話だけどね」 「んー……俺だったら２人分愛します」 「え？」 「愛されてないから、俺がその分愛すんです」 「……どういうこと？」 「えっと、俺を嫌いな両親も愛して、俺は俺自身が愛する？みたいな？」 「……なにそれ寂しい」 「ですね。 でもそれでいい。 愛される事はできなくても俺が誰かを愛する事は出来るから」 「……」 「それに、俺を愛さなくても他の人を愛してくれたらそれでいいんです。 幸せの連鎖が起きてる、そしたら皆幸せになれそうじゃないですか？」 「他の人を愛さなかったら？」 「困りますね……でも愛さなくてもその人は愛されてます俺に。 愛って誰かに分け与える為にあるって俺は思うから、２人分愛します」 「……そっか」 「そう、出来るように強くなることから始めなきゃですけどね。 だけど人を恨んで生きてたくないんです」 「え？」 「昔色々あって、凄い嫌な思いをしたけど……人を許せる強さは持ちたいって思いました」 「俺は、それが出来なかった」 「……」 「許せなかった。 だから今日ちっさな復讐をしたんだ、そしたら上手くいったよ……」 「でもスッキリしなかった？」 「……ふふっうん、その通りだ」 「お兄さん、俺が話しかけてから今もずっと悲しい顔してます」 「え？」 真っ直ぐ前を見ていた視線を その子へと向ける 驚く俺の頭に彼の手が伸びてきてポンポンと何度か撫でるとスッ、と消えていった 誰かに頭を撫でられるのはいつぶりだろうか その子の手は酷く優しくて 思わず泣きそうなほどだった 「泣きたい時には泣くのが一番ですよ」 「……ふっ、生意気だね」 「ごめんなさい。 でも、本当そう思います」 「……」 「俺の幼馴染みが言うんですよ『涙が見えた』って」 「見えた？」 「俺、泣いてもなかったしずっと笑ってたのに突然『今泣いてるだろ』って。 おかしいですよね」 「……」 「でも……本当そいつの言う通りで、そいつの前じゃいつも弱い所ばっか見せてて……最初は何言ってんだよって思ってたけど。 でも今、お兄さん見て分かりました」 「俺？」 「流石に涙が見えたなんて言わないですけど、お兄さんが笑う度心臓が痛くなります」 「……ふっ」 「ほらまた笑う。 泣きたいのに笑ってばっかじゃ疲れちゃいますよ」 「……」 そう言って優しく微笑むその子を見て胸が締め付けられる この子に涙が見えたって言ってくれる素敵な幼馴染みがいるのはきっと今をしっかりと生きてるからだ 俺とは違う 自分の時間を生きてる ほんの少し俺と重ねた 会いたい人を、親を亡くしてる過去を 戻せない時間に焦がれていることを だけど全然違ったこの子は 悲しくてもきっと同じように汚い事を考えても自分に負けないように生きてるんだ 俺なんかと重ねたらダメだ 「祥君、優しいんだな」 「え？！俺が？！」 「うん……優しくて、強い」 「そんなこと……ないですよ……」 「まあ色々あるだろうけど、でも俺が今見てる君は強いから優しい子だって思ったよ」 「……」 「俺も……頑張れるかなー」 「……頑張れますよ。 無責任な言い方だけど」 「ふふっどうしてそう思うの？」 「だって、お兄さん俺にマフラーつけていいよって言ってくれたし」 「なにそれしょーもないなぁ」 「しょーもなくないですよ、そういうの凄い大切です。 きっとお兄さんにも大切な人できます。 お兄さんを愛してくれる人、絶対現れます……だから、だからその時は泣きたいのに笑ったりなんかしちゃダメですよ……」 「……祥君、お兄ちゃんなだけあるね、物凄くお節介」 「――っ！ご、ごめんなさいっ！」 こんな自分よりも年下の子に慰められるなんて俺も間抜けだな でもこの子が言う言葉をなぜだか 信じようと思った きっと明日には忘れてるだろう男の子の言葉に胸のつっかえをとってもらうなんて 明日から頑張ってみようかななんてことを思うなんて こんな小さな出会いがこれから大きく関わるなんてこの時の俺は思ってもみなかった 背中を押してくれたのは 優しく俺に寄り添ってくれたのは 初めて会った見ず知らずの 傷を持ってる小さくて大きい１人の青年だったんだ