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*** 「で、まあ色々あって家は追い出されて俺は今も結局ふらふらしたままってわけ。 どう?しょーもないでしょ」 「……」 「だから明日にはもしかしたら耀さんを好きって自分が信じられなくなって、分からなくなって好きじゃなくなるかもしれないってこと」 「話してくれてありがとうな」 「俺こそ、くだらない話聞いてくれてありがとね」 耀さんに後ろから抱きしめられてて良かった 顔見られたくなかったから本当に良かった 耀さんもきっと 俺のことどうしようもない人間だって思う あんなでも俺の家族だった あの人達と同じように 俺が空っぽな下らない人間だって 知ったから 「よし!」 「――ッ?!」 ずっと黙りこくっていた耀さんが 大きな声を出す 急に沈黙を破られて驚いてる俺を ぐるっと体を反転させると向かい合わせに座らせられた 「なっ、なに?」 「じゃあその約束とやらは守らなきゃな」 「は?」 「祥君と約束したんだろ?」 「約束?」 「愛してくれる人と出会ったら、無理して笑わないって。 泣きたい時には泣くって」 「は……?」 「俺言ったよなあの喧嘩した日」 「……」 「瑞生いつも笑ってばっかで見てるコッチからしたら歯痒かったわ。 挙句にお前、俺のことセフレ呼びするし」 「そ……れは……、だって……!」 「こら、だってもくそもない」 「……」 「俺も瑞生を傷つけた。 悪かった」 「……」 「……瑞生は?」 「…………ごめ……なさい……」 「それと?」 「……」 「他にもうないか?」 「……うん」 「そっか、じゃあ仲直りな。 あの喧嘩のことはもう終わり。 で、今度はこれからのこと、未来の話をしたいけどいいか?」 「……」 「俺はシンプルに瑞生が好きだ」 「っ……!」 「お前が愛される事に臆病になってるのはわかった上で口にしてる。 瑞生にとって好きってものがどれだけ重くて繊細なものなのか」 「……っ」 「でも変わらない、俺は瑞生が好きだし、ぶっちゃけ他の誰かに触られてるお前はもう二度と見たくねぇかな」 「か、がりさ……でも……っ」 「いいよ。 わかってる」 「……」 「気持ちに追いつかないんだろ? 無理して全部を乗り越えようとするなよ」 「……その間に好きじゃなくなるかもしれないのに?」 「その時はその時だろ? そしたらまた、野良猫瑞生に餌をやりに行くよ」 「……なにそれ馬鹿じゃないの」 「怖い時は黙って傍に俺が居てやる」 「……」 「悲しくても笑う事しか出来ない時はうんと甘やかしてやるよ」 「…………」 「瑞生の作り笑いが、本物になるように俺が楽しくしてやる。 上手いもんたらふく食ってお前の好きな酒飲んで沢山笑えばいい、ゆっくり瑞生のペースで幸せに触れていけばいいさ」 「それじゃあ……耀さんが辛いでしょ……」 「バーカ、俺は伊達に歳だけくってるんじゃねーの。 瑞生の気持ちが整理付くまでゆっくり待つよ」 そう言って伸びてきた手が 頭を何度も何度も優しく撫でてくれる あぁ、頭を撫でられるのは こんなに満たされる事だったろうか ずっと複雑に絡み付いていた何かが解けていく あの日と同じだ 人に頭を撫でられる事に 泣いてしまいたいようなそんな 幸福感が溢れかえってきた 「……じゃあ………………キスは?」 「お、前な〜!」 「キスしないの?」 「してーのか?」 「……耀さんがしてくれないなら俺、他の人としちゃうかも」 「お、おい!」 「前みたいにまたエッチもしてくれなきゃ俺、他の人と寝るよ」 「だから瑞生」 「違う!」 何かを言いかけた耀さんの言葉を遮って否定する 違う そうじゃない 今度は違うんだ 「自分を、大事にしてないんじゃなくて」 「……」 「耀さんだから良いよって……言ってんの」 「え?」 「〜〜〜っ!この鈍感!」 「ちょ、殴るな!」 「だからっ俺はもしかしたら耀さんが好きかもしれないから!……耀さんだけにするから、他の人とはもう連絡取らないようにするから……っ……だから、俺に触ってって言ってんの……!」 「な……っ……え!」 パクパクと口を開けたまま驚いている耀さんの胸に顔をうずめる こんな言葉を言う日が来るなんて思ってもみなかった 恥ずかしい事を耐えて言ってるのに 一向に耀さんからの反応は無くて ムッとして顔を上げたと同時に後ろへ押し倒された 「び、っくり……耀さん?」 「はぁ瑞生」 「……なに?」 「俺はここ数ヶ月かなり耐えた」 「え?」 「お前が誰彼構わず寝ることに抵抗を感じてないのを知ってたから、他の奴らと同じになりたくなくて何度誘われても耐えてた」 「……」 「なのにお前は俺の気も知らねーで毎回毎回可愛い事して煽ってくるし」 「……耀さん」 「もう、待ったは無しだぞ?」 どくんっ いつものヘラヘラした表情じゃない 色っぽい目をした耀さんが真っ直ぐに見下ろしてくる この瞳をしてる時の耀さんは 別人みたいでゾクゾクする 今すぐにでもめちゃくちゃにされそうな 男の顔をした耀さん そっと両手を伸ばして首元に抱きつくと 耳の横で静かに囁いた 「もう、我慢しないでいいよ」 「……っ」 「俺も、耀さんが……欲しい……」 バクバクと心臓の音が大きくなる この言葉は嘘じゃない 今までみたいな嘘じゃない 本心から本当に体中が 耀さんをほしがってる この人にめちゃくちゃに抱かれたいって 今まで感じたこともないほど欲情している

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