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06
「……直輝が言ったんだろ」
「ん?」
「あっ……甘やかして……くれるって……」
「それで?」
「だ、だから! 甘えてんの!」
「…………ふっ、あははっ」
「笑うなよバカ! そもそも直輝が甘やかしてくれるって言ったくせに待っても待っても全然触ってくれないし!」
「痛い、痛い。 家庭内暴力でーす」
「〜〜〜ッ、……だから……甘えてんだから、キスぐらいしてよ……」
「喜んで」
「……遅いよばか」
「大好きだよ」
「ん」
真っ赤な顔して横を向いていた祥が
体を反転させて仰向けになると目を閉じる
可愛いなぁなんて思いながら頭を撫でて
祥のいじらしい可愛いお願いに応えて唇にそっとキスをした
「ん……あっ」
「どうした?」
「……まだ、だめ」
「ふっ、じゃあどうしたらいい?」
「〜〜〜ッ」
「言って、祥の口から聞きたい」
「む、無理……っ」
「甘えるんだろ?」
「だから……!」
「だから?」
「も、もっとキスして……ッ」
「いいよ」
これ以上赤くならないんじゃないかってぐらい祥の顔が染まりあがる
首まで朱色に染まった肌を撫でて体を傾けた
吸い付くように祥の唇と重なって
故意に開かれた口の中へと舌を潜り込ませる
熱くてやっぱり少し苦いコーヒーの味がする
クチュクチュと音をたてて角度を変えた時
祥の腕が俺の首へと巻きついてきた
「ふ……ッ……んぅ、や……だめ……」
「ん……祥?」
「だめだって……ッ」
「どうした?」
「……」
まだ理性が崩れたわけでもないのに祥がいつもよりも積極的にキスを受け入れる
その様子が前と同じ
何か不安に感じてるあの時と同じに思えて顔を離した
「祥〜?」
「……違う」
「何が違うんだよ」
「……っ」
「んー?」
「も……っ! もう……ッ!」
「もう?」
「直輝は俺の直輝だもん……ッ!」
「へ?!」
「うぅッ」
嬉しいけど急すぎる訳の分からないそんな言葉にパチパチと瞬きをして驚いてしまう
それに目の前の祥は
今すぐにでも泣きだしそうでまるで子供が駄々をこねている様子にそっくり
「うん、俺は祥のだよ」
「……ッ……直輝は……グスっ……俺と付きあってんだもん……ッ」
「うん、そうだよ。 俺は祥としか付き合わない、祥の恋人だ」
「…………他の人と付き合ってなんかないよね……?」
「当たり前だろ? 他の奴に使う時間なんて1秒だって勿体無い。 あったら迷わず祥の傍に居るよ」
「……うぅ……ッ」
「よしよし、大丈夫だよ祥」
嫌な予感ほど的中するものだ
腕の中に居る祥は大きなタレ目から涙を零していて今日きっと何かあったんだって事を証明している
「祥? 何があった?」
「ッぐす……今日、……直輝と別れて、他のところ行った」
「うん」
「…………そこで……ッ……直輝と付き合ってるって……女の子に言われて……うぅ……違うって言いたかったのに……グスッ」
「うん、うん」
「俺が……ッ……直輝の恋人って言いたかったのにぃ……! 言えなかった……のが……悔しくて……っ」
「……うん。 嫌な思いさせたな……ごめん」
「直輝は俺の直輝だよ……ッ」
「よしよし」
ポロポロと涙が後から後から溢れ出す
その時祥の隣に居てやれなかったのが悔しい
どうせ頭のおかしい見栄を張りたがりなヴィッチが言ったんだろ
くだらない虚栄心だな
そうは思うけど俺と違って純粋な祥は傷ついてる
こういう時、祥にいつも嫌な思いさせてると思うと俺まで心臓がズキズキと痛み出した
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