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捕縛 10

春の安息の時間は短かった。 時は残酷に過ぎて、あっという間に向田の仕事の就業時刻となった。 お願いだから来ないでと願ったのも虚しく、向田はやってきてしまった。 手慣れた様子で当然のように家に上がり込んできて、部屋で小さくなっていた春を見つけるとその身体を抱き寄せた。 「春、昨日はごめん。俺に会えなくて寂しかっただろう?あぁ…今日も春は綺麗だ。その銀髪と碧い目は何度見ても飽きないよ」 向田は硬直する春の髪の毛を撫でると、顎を掴んで軽く触れるだけのキスをして、最期に春の唇をペロリと舐めた。 「春、愛する夫に1日ぶりに会ったんだぞ。言うべき事があるだろう?」 「……しくなんか、」 「何だって?」 「寂しくなんかない!」 春は震え出しそうになる声をなんとか張り上げた。 どんなに恐ろしくても、本当の意味で逆らうことはできないのだとしても、それでも向田の言いなりになるのは嫌だった。 向田は恐怖と嫌悪の対象であると同時に、自分と家族を酷い目に遭わせた憎い相手でもあるのだから。 春が決死の覚悟で声を張り上げたのとは対照的に、向田は余裕の笑みさえ口元に浮かべながら、面白そうに春を見ていた。 そして、わざとらしい猫撫で声を出した。 「昨日抱いてあげられなかったから、拗ねてるのか?ごめんね。今日は昨日の分も愛してあげるよ」 「違う!俺は…俺はあんなことしたくない!」 「あんなこと?セックスのこと?あれは、夫婦間では普通の事だ。恥ずかしがる必要はないんだよ」 「夫婦じゃない!変なこと言うなよ!」 向田は本当にごく普通の、当然の事のように言ったが、春にとって向田の言っている事はひとつも当たり前の事ではなかった。 男同士で…しかもこんな年上と自分の様な子供があんなことするなんて、どう考えても異常だ。 向田との関係に、一つも合意なんてないと言うのに、当然の様に自分達を『夫婦』だと言っているのも、普通じゃない。頭がおかしい。 「何度言わせるんだ。俺達は夫婦だよ。事実、春は今、向田春なんだよ?」 「それは、お前が!父さんを脅して無理矢理したことじゃないか!」 春は心臓がバクバクして、呼吸が荒くなった。向田のやったことをこうして口にして改めて認識すると、憎くて、悔しくてたまらない。 「そうだよ。そうする為に、俺がどれだけの金と労力をかけたかわかるか?ぜーんぶ、春への愛の為なんだよ」 「そんなの知らない!俺はそんなの望んでない!」 「こんなに愛しているのに?」 「俺はお前を愛してなんかない!」 きっぱり言い切ると、これまで薄ら笑みを浮かべていた向田から突然表情が消えた。 その不自然な変化が不気味で、春に寒気が走る。 「……春、悲しいなぁ…。嘘でも愛してないなんて言っちゃだめだろ?」 向田は有無を言わさぬ力で春を抱きすくめ、真後ろのベッドに押し倒した。 春はすぐに全力で抵抗したが、華奢でまだ身体の出来上がっていない子供の春と、体格のいい大人の向田の力の差は歴然で、力で押さえられてしまうとどうしようもなかった。 「…っく、はな、せ!もうこんなのはいやだッ!」 向田は、相変わらず表情のない顔で春を正面から見つめた。 「俺はただ春を気持ちよくさせてあげたいだけなのに、春はそんなにお仕置きを受けたいの?もしかして春は、痛いのが好きなのかな?」 お仕置き―――。 その言葉を聞いて春の背筋は凍りついた。 一昨日味わわされた痛みや屈辱や恐怖が一気に甦ったのだ。 向田は真っ青になってしまった春を見て、ようやくその無表情を崩した。その笑顔は、春にとっては狂気の笑みに思えた。 「痛いのが好きなら、今日のお仕置きにはとっておきの気持ちいいことをしてあげようね」 向田は、真っ青になりながらも暴れる春から服を剥ぎとると、持ってきた鞄からその為に用意していた縄を取り出して春の手首と足首を片方ずつ合わせて縛った。 春の脚は大きくM字に開いた状態で固定されたのだ。 羞恥に震える春は、膝頭を合わせる様に股を閉じようとしたが、その抵抗すら許されず、向田によって無理矢理股を開かれた。 「今日もとっても綺麗だよ」 向田がそこをじっくりと見ながら言った。 本来なら、人に見せる部分じゃないそこを余すところなく眺められ、春は羞恥心やら屈辱やらで既に泣きそうだった。 だが、向田がそれに気遣う筈もなく、無遠慮な視線は注がれ続けた。 暫くしてようやく離れた向田は、再び鞄を漁り出した。 「これ、何かわかる?」 春に向き直った向田の手に握られていたのは、細長い棒状のステンレスと、何か軟膏でも入っていそうな小さなチューブだった。 「知らない!もうやめて!」 春にはそれが何なのか皆目見当もつかなかったが、向田のやることだ。嫌な予感しかしない。 「これはね、尿道を気持ちよくする道具だよ。本当は、春が普通のセックスにもう少し慣れてから使おうと思ってたんだけど、お前があんまり悪い子だからね。最高に気持ちよくしてあげる」 向田はニヤニヤ笑いながら言った。「悪い子」「気持ちよくする」といったキーワードと向田のイヤらしい顔つきに、不安は倍増する。が、その持っている道具で何をするつもりなのか、春はすぐには理解できなかった。 「…にょう…どう…?……ッやだ!やめろ!」 ようやく向田の言葉の意味を理解した春は顔を青くさせて暴れた。あれで何をされるのか予想はついたが、本当にそんな事できるのか、俄には信じられない。常識では考えられない事だ。 でも、こいつならやりかねない。 そう思った時、向田が春の中心に手を伸ばしてきた。 「や…やだっ!やめて!」 向田は口元に笑みを浮かべながら春の物を掴んで扱き始めた。だが、すっかり怯えきった春の物はどれだけ弄られても形を変えなかった。 「仕方ない…」 向田がそう呟いて、諦めたのかと思ったのも束の間、ひんやりとした物が先端に触れた。 「別に勃起しなくても、尿道は可愛がってあげられるからね」 向田はチューブの潤滑剤を春の柔らかい先端の孔と、細長いステンレスに塗ったくった。 春が恐怖に固まり、声もあげられな中、向田は躊躇せず春の小さな穴の中にステンレスの棒を挿入した。 「ああぁぁぁっ!!!」 鋭い痛みに春の悲痛な叫び声があがる。 医療用の尿道カテーテルと殆ど太さの代わらないそれは、潤滑剤の滑りをかりてツプツプと中に埋め込まれていく。 「春、すごいよ。もうこんなに入っちゃった」 ふうふうと興奮した鼻息を鳴らしながら向田が言った。 春は視界がぼやけて、そして何より怖くてそこを見ることはできなかった。 春の顔は涙でグショグショで、カタカタと歯をならしていた。 男にとって一番の急所を、為す術も無く玩ばれているのだ。春にとってこれは酷い拷問に等しかった。 それでも向田は容赦しない。 「まだまだ気持ちよくなるよ」 そう言うと、中に入った異物のバイブレーションのスイッチを入れて、更にそれを出し入れし始めたのだ。 「あ゛あああぁぁあッ…!」 春はあまりの痛みに我を忘れて絶叫した。 「春。もう一度聞かせてもらおうか」 向田は無表情を作ってそれを出し入れしながら言う。 「春は俺を愛してるだろ?」 「いたいッ…いたいっ、もうやめておねがい!」 「ん?聞こえないなぁ。愛してるのか?」 「……ぁ、あい、してるっ!」 「愛しています孝市さん、だろ?」 「あッ、あいしてますっ……こう、いちさん…!」 「いい子だ」 向田は機嫌が直った事を示すように相好を崩すと、ようやく細い孔からバイブを抜いた。 手足を解放されても、春の震えは暫く止まらなかった。

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