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捕縛 15
「今日も春はこの店にいる誰よりも美しかった」
隣に座らせた春の腰を、絡み付く様な手つきで撫で回しながら向田が言う。
無反応で俯いたままの春とは違い、向田は上機嫌だ。
あれから春は毎日女装紛いの格好をさせられて食事に連れ出される様になった。
手を繋がされたり、キスを仕掛けられたりする度に、「去年もこうしたかったんだ」と向田は嬉しそうに言ったが、春はその度に虫酸が走る思いだった。
向田のことを信じきっていた去年の自分が愚かで哀れだ。
なぜ、あんなにもこんな男を信じ、その時間を楽しいとすら思っていたのか。
あの時、自分があんなに愚かじゃなかったら、危機感を持ち続けていたら、こいつも諦めたかもしれないのに…。
やっぱり俺は人を見る目のない愚鈍だ。その愚鈍が身を滅ぼすだけでなく家族をも滅ぼしたのだと思うと、気が滅入って仕方なかった。
春を片手に抱いて楽しそうな向田に反比例するように、春の気持ちは落ちていった。
「春、さっきから全然食べてないじゃないか」
向田が春の前に置かれた寿司が均等に5貫並ぶ細長い皿を指して言った。
和食のコース料理だった今日、ついにご飯物が出てきた。あとは果物かアイスか何かが出てくれば終わりだろう。
この店を出れば、そのあとは……。
店を出る時間が近づくにつれて春の気分は沈んでいく一方だ。
向田が箸でマグロの握りを掴んで、春の口元に持ってくる。春は僅かに顔を背けた。
「…いらない」
「だめだ。春はたたでさえ細いんだから、これ以上痩せたら体調壊すよ?」
体調?どの口がそんなこと言うんだ。
俺をこんなにしたのはどこの誰だ?
向田は顔を背けて拒絶する春の頬を掴んで口を開けさせ、半分にしたシャリとマグロを口の中に放り込んだ。
春は顔をしかめて、それでも食べ物を吐き出す訳にも行かず、仕方なく咀嚼した。
口の中に特有の血生臭い臭いが広がって、少し吐き気がした。
マグロ、好物だったのにな…。
その調子で5貫の寿司全部を無理矢理食べさせられた。
タイミングを見計らったように運ばれてきた梨は、自分から食べた。
店を出た後の事を考えるととても食欲は湧かなかったが、向田に無理矢理食べさせられたせいで口の中が気持ち悪かったし、どうせ口に運ばれるのなら、自分で食べた方がましだと思ったからだ。
店を出ると、来た時同様に手を繋がれて駐車場まで行き、助手席に座らされる。
ドアを開けて、女性にするように優しくエスコートされたが、春にとっては力ずくで押し込められているも同然だった。
運転席に乗り込んだ向田が、身を乗り出して覆い被さってきて唇を奪ってくる。
向田の口づけが触れるだけで終わる事など殆どない。
口の中を、向田の気が済むまで蹂躙される。
抵抗できない舌を好き勝手吸われて、息が苦しくなって合間に吐息が漏れるのも、唇がようやく解放された時にすっかり息が上がっているのも、何もかもが嫌で仕方がない。
気の済んだ向田が満足気にハンドルを握って、車が動き出した。
向かう先はいつも決まっている。
春の住むマンション。
恋人の真似事をさせられるのも、キスをされるのも、これ以上ないってくらいに嫌なのに、それでもまだまだこんなのは序の口なのだ。
もっともっと嫌な事が、この後待っている。
毎日毎晩飽きることなく繰り返されるそれに、春の心も身体も消耗しきっていた。
逃げる事も、逆らう事も許されず、ただ欲望をぶつけられる為だけのモノにさせられる時間。それが刻一刻と迫っていた。
*
ズチュ…グチュッ…。
狭いシングルベッドの上で、四つん這いの姿勢を取らされた春の後ろの穴には、向田の節くれ立った指が2本挿入されて、たっぷりと入れられた潤滑用のローションが卑猥な水音を立てていた。
「っ…はっ、はぁっ…っく…」
何度やられても慣れない感覚に、春は浅く息を吐きながら苦痛に耐えていた。
向田はここ数日、春の内部の開発に勤しんでいる。
自分のぺニスで突きまくる事よりも、確実に春のいい所をピンポイントで刺激できる様に指での前戯に時間をかけているのだ。
しつこく前立腺を擦っていると、いつもの様に春の腰がピクピク動き出す。
「ここ。ねえ、ここをぐいぐいされると気持ちいいだろう?」
「や……ッ」
「ほらここ。ここだろう?気持ちいいんだろ?」
「ぁッ……ャだ…っ」
言葉でも辱しめながら強めに摩擦し続けると、春の萎えていたものも少しずつ頭をもたげてきた。
今日は普段よりも反応がいい。
調子づいた向田は、ローションを追加しながら尚も春の前立腺を刺激し続ける。
「や……だ、めっ」
春の鼻にかかった様な声が更に甘くなってきた頃には、春の前は完全に勃ち上がっていた。
「顔を見せてご覧」
向田はぬぷっと指を抜くと、支えをなくして崩折れた春の身体を仰向けにひっくり返して足を抱え上げた。
そうして、未知の快楽に恐れ慄いている春に3本の指を見せつけた。
「今度は3本ね。大丈夫。春のお尻もうトロトロだから」
「う………ン…ッ」
狭い春の孔が裂けてしまわない様にローションを再び足して、ゆっくりと指を埋め込ませていく。
春の中は何度太い向田自身で貫こうと緩くなる事はなく、処女の様に狭かった。
そこに挿入すると、隙間なくぴったりと春の柔らかく暖かな粘膜に包まれるのだ。今挿入している指がそうである様に。
「あぁ…すごい……」
すっぽり納まった指を曲げて、グイグイ押すようにして前立腺を再び刺激すると、春の顔が見る見る間に上気していった。
潤ませた目元を赤く染め、半開きの口からは堪えきれない甘い声が吐息と共に漏れ始めて際限なく向田を煽る。
「春、凄く綺麗だ。美しいよ」
目を細めて春を見つめる向田の視線に気づいた春は、悔しそうに唇を噛んで顔を横に背け、向田の視線から自分を隠す様に顔の上に腕を置いた。
「だめだよ隠しちゃ。春の感じているエッチな顔を見せて」
顔に置かれた腕を持ち上げてマットレスに押し付けると、今にも泣き出しそうな程に潤んだ瞳と目が合う。
「可愛いよ」
向田は鼻息を一層荒くさせて、春の噛み締めた唇を解すようにキスをした。
そして、口の中まで犯しながら、グチョグチョと下品な音を立てて指を激しく前後させた。
「っん、んんッ……」
唇を離すと、強い快感と酸欠で春の目はトロンと溶けている様に見えた。
春の身体が、内の快楽の虜となりつつあるのは明白だった。
もうすぐで、春の身体は堕ちる。
だらしなく口元を緩ませた向田が更に激しく指を動かすと、春の前がフルフルと震えた。そして……。
「ン……ぁッ……あ……あッ……!」
控えめな、でも確実な喘ぎ声をあげて春は絶頂した。
勃ち上った物から透明の液体がトロトロ溢れ、身体がピクピクと小刻みに痙攣している。
「春、あぁ……春。すごく可愛いかったよ。ようやく中でイけたね。春の身体、お尻でイく様になっちゃったね。もうどう考えても俺のオンナだよ」
向田は忙しなく自身の下半身を寛げながら嬉しそうに言った。
この日を待ちに待っていた。
男としてあるまじき雌の快感を覚えさせて、春の清廉な心までも穢すこの日を。身体だけじゃなく、精神までも犯す事ができる様になる日を…。
これで確実に春は俺の妻だ。
だって男にヤられる悦びを知ってしまったのだから。もう嫌だ、痛い、苦しいばかりではないのだ。
俺とのセックスの虜になれば、きっと春の心も俺に堕ちてくる。
俺を、好きになる筈だ。
向田は心地よい満足感と期待感、そしてゾクゾクする様な背徳感に酔いしれながら、未だビクビクと身体を震わせる春の股を再び広げた。
「おちんちん、欲しいだろう?」
もう後は腰を進めれば入る状態にスタンバイして、それから焦点の合わない春に向かって言った。
「……っや、いやっ」
春は向田が次にやろうとしている事に気づくと真っ青になって首を振った。
向田は、なんとか逃れようと頭の方にずり上がろうとする春の身体をいとも簡単に押さえつけ、耳元で囁く。
「今入れてあげるからね。ひとつになって、もっともっと気持ちよくなろうね」
「ひぁっ…ぁああっ!」
向田のいきり立ったぺニスを達した直後の敏感な孔に埋め込まれ、その強すぎる刺激に春は頭を仰け反らせて啼いた。
その苦しげな様子を気に留めもせずに、向田自身も快楽を追って中を滅茶苦茶に突き出した。
「あぁ……春の中、俺のに絡み付いてくるよ。お尻の中こんな風にされて気持ちいいんでしょ?淫乱な身体だね」
「っ…やぁ…ちが、ちがうッ…」
「違わないよ。ほら見て。さっきイったばかりの春のおちんちん、またおっきくなってきた」
「やだっ!こんな…っ…おれじゃないっ!」
「何言ってるんだ。これが春の本当の姿だろう?春は男のくせにおちんちんをお尻の孔に入れられて気持ちよくなる淫乱なんだよ」
「ちがうっ!……こんなの……ッ…」
「じゃあ何でこんなにここ勃たせてるの?俺のおちんちんが気持ちいいからだろう?男の子なのにこんな所が気持ちいいなんて、とんだ変態だよねぇ」
「いや…っ……も…やめて……ッ」
「やめられないよ。春が悪いんだよ。俺のおちんちん美味しそうに飲み込んで離してくれないんだから」
向田は春の心をいたぶる様な言葉を吐きながら、春のいい所を的確に突いていた。
春は知りたくもなかった快感を否定したくて首を振り続けた。でもそんな事で向田に突かれる度にせりあがってくる快感に抗える筈はなかった。
「ぁッ……ゃ…あぁぁッ」
涙を散らしながら、春は再び全身を震わせて達した。
春が絶頂するのに合わせてまるで向田から精液を搾り取るように中が不規則に収縮したから、向田も不意打ちの様に射精した。
「はぁ、はぁ、いっぱい出ちゃった。春の中凄いよ。こんなにエッチな身体初めてだ」
これまでも春の身体は名器と言ってもいい程によかったが、快楽を知った身体はその上をいくよさだった。
春は本当に俺を飽きさせない。
開発すればする程俺好みの身体になっていくのだから。
春は俺の妻に、なるべくしてなったのだ。
容姿も性格も身体も100点。こんなに理想通りの相手は、世界中探したってそうそう見つからない。
「俺たち二人が出会ったのは運命だよ。身体の相性までこんなにバッチリなんだら」
向田は嬉しくて笑みが押さえられず、フフフと声に出して笑っていたが、虚ろな瞳に絶望を写した春は一瞬たりとも向田に視線を向けなかった。
*
向田は春にキスと、かわいかったよという言葉をしつこいくらい浴びせて帰って行った。
これまで向田が春の家に泊まったことは一度もない。
凌辱が終わるのが例え深夜になろうと、必ず帰って行った。
それが春にとっては唯一の救いだった。
だるい身体を起こして、バスルームまで足を引きずって歩く。
途中で向田によって中に出された白い体液がツーっと足を伝って床に溢れた。
情けなくて悔しくて、無性に遣る瀬無い気持ちになった。
床が汚れるのも構わずバスルームに入り、シャワーの飛沫を浴びながら、これまで触ったこともなかった後ろの穴に指を捩じ込んで、中の精液を掻き出した。
こんなことしたくなかったが、放置して痛い目を見るのは自分なので、事後意識が残されている日は必ずこれを行った。
鏡に写る自分の上半身には、胸から腹にかけて無数の小さな痣が点在している。
今日つけられたものもあれば、昨日や、一昨日のものもある。
父母がドイツに発ったあの日から、この痣が肌から消えたことは一度もない。
春は自分がとんでもなく汚い物に貶められた気がした。
そんな姿を見ていると、向田に投げつけられた言葉を思い出してしまう。
『お前は淫乱だ。とんだ変態だ』
あいつの言うように、俺はただの淫乱なのかもしれない。
あんなことをされて、非れもなく喘ぎ声を漏らし、身体を震わせて…。
ただ揺さぶられているだけならよかった。
痛みや苦痛しか感じない方がよっぽどよかった。
どうして俺は、あんな…………。
醜い。俺は、汚れている。
春はヘタリと座り込むと、シャワーなんかじゃ落とすことのできない汚れた身体を投げ出した。どんよりとした絶望がその身を重く支配していって、暫く立ち上がることができなかった。
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