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捕縛 20
土曜日の朝。
昨晩の凌辱の後、殆ど気を失うように眠っていた春は、隣に寝ていた向田に叩き起こされ、有無を言わさず車に乗せられた。
昨夜、初めて向田が春のマンションに泊まったのだ。
そして、今日も一日中一緒に過ごさなければならない。
絶望的な状況に目眩がしそうな春に対して運転席に座る向田は鼻唄でも歌い出しそうな程上機嫌だ。
「春との遊園地デート楽しみだな。去年は焦らされて随分とヤキモキさせられたからね。今日は俺のしたかったこと、全部するからね」
今日じゃなくたって、わざわざ遊園地になんか行かなくたって、いつだってやりたい放題している癖に。
それなのに、どうして俺から束の間の楽しみすら奪うのだろう。
どうして、今日だったのだろう。
どうして………。
紫音のバスケ、見たかったな……。
紫音の笑顔に触れたかった。
少しでいいから、暖かなあの笑顔に。
とても眩しいけれど、心が欲して止まなかったから。
でも、もう俺は紫音に近づけない。
昨晩、向田は春を犯しながらこう言ったのだ。
「許さない…許さない。お前を奪う男は、絶対に許さない!」
それを聞いて、痛みに真っ青だった春の顔色はさらに蒼白になった。
この男は、危険だ。何をしでかすか分からない。
常識が通用する相手でないことは、父を嵌め、自分を無理矢理従わせるそのやり口で嫌というほど理解した。
この男は、目をつけた対象をあらゆる手段で破滅に追いやるだろう。
もしも自分のせいで紫音が目をつけられてしまったら…。
そんなことは絶対にあってはいけない。
だから、もう…………。
*
去年来たときはあんなにも全てが輝いて見えた夢の国が、今日は何もかもが色を無くして灰色に見えた。
気持ちひとつでこんなにも景色が違って見えるのかと、春は気を紛らわす様に考えた。
というのも――。
向田は常に春の肩や腰に手を回し、少しでも離れようとする春を言葉と力で制して寄り添って歩くことを強制してきたのだ。
その事自体は、いつも外食の時にされている事だったが、いかんせんここは人目が多すぎる。
「みんな春と俺を見てる」
向田が弾んだ声で言った。
見られて当然だ。男同士で寄り添って歩いているのだ。
奇異の視線に晒されても何らおかしくない。
「見て。あいつなんて、露骨に春に見惚れているじゃないか。まぬけな面をしてバカな男だ。春は俺の物だっていうのに」
向田に見ろと言われたその人は口を開けてポカンとしていたが、春と目が合うと慌てた様に視線を逸らした。
これだって当然の反応だ。
そう分かっていても、露骨に気持ち悪がられているのはショックだし、強い羞恥心も覚えた。
俺は、本当はこんな事したくないのに―――。
いたたまれなくて顔を伏せる春を余所に、向田はより春の身体を引き寄せた。
「春にこんな事できるのは俺だけなんだもんなぁ。これからもずーっと俺だけ」
向田はクスクスと笑っていて、その姿は傍目には幸せそうに見えたが、春は狂気しか感じなかった。
「そんなに下ばかり向いていないで、顔をあげてご覧。俺の妻はこんなに可愛いんだってみんなに自慢してやらないと」
向田の言葉はどんなに優しい口調であっても春にとっては脅迫であり命令だ。
目線を前に戻すと、やっぱりまだ痛いくらいの視線は止んでいなくて、またすぐに下を向いてしまう。
「真っ赤な顔をして可愛いね。俺を煽ってるの?」
「違う。頼むから離れて…」
「離れるもんか。春は俺の物なんだから。こんなに可愛い子を放し飼いにしたら、すぐに誰かに連れ去られてしまうじゃないか」
「……」
人をペットみたいに言いやがって…。
そう思いながらも春は唇を噛んで黙るしかなかった。
本当は「俺はお前のものじゃない!」と叫びたかったが、その手のやり取りをしても、結局最後はあらゆる嫌がらせと痛みや羞恥を与えられて強制的に認めさせられるだけだったから、流石に春も全ての事に反発する気力は失われていた。
そのままアトラクションに並ぶでもなくひたすら園内を連れ回され、1時間程経った頃、満足気に歩き回っていた向田が何かソワソワし出した。
「もう少しデートを楽しみたいけど……どうしようかな」
今度は何を企んでいるのかと顔を挙げた春を迎えたのは、にやけた向田の唇のドアップだった。
向田は手慣れた様子で春に軽いキスをしてから、より一層口元を緩めて言った。
「あぁ、やっぱり我慢できない」
これまで当て所なくブラブラしていた向田の歩調が変わり、明確な目的を持って春を引っ張った。
一体どこに……。
そう考えていた春の疑問は、すぐに解決された。
「早くホテルに行こう。ムラムラしちゃって辛抱ならないよ」
春は身体を固くさせたが、向田はお構い無しに春の手を強く引き、足早にホテルを目指した。
*
部屋に入るなり、向田に深い口づけをされ、服を剥ぎ取られながら窓の前まで歩かされた。
「どうせなら、ワンダーランドの雰囲気を楽しみながらしようね」
バルコニーに繋がる大きな掃き出し窓に手をついて尻を突き出す様言われたが、あまりの格好に躊躇した。
すると、焦れたらしい向田に、無理矢理手を付かされて背中を前に倒され、腰を持ち上げられた。
そして、後孔にヌルリとした感触がして首を向けると、跪いた向田がそこに顔を埋めていた。
反射的に腰を引こうとしたが、向田にがっしりと掴まれて叶わなかった。
堪らない。
まだ冷静な頭の内にこんな羞恥心を煽るような真似をされるのは堪らない。
大きな窓からはワンダーランドが見渡せて、アトラクションに乗った人達の絶叫や歓声も微かに耳に入ってくる。
こんな昼間から、夢を見させてくれる筈の場所で、俺は一体何をしているのだろう……。
*
「あー……気持ちよかったよ」
春の中に放ちスッキリした口調の向田が離れた途端。春は床に崩折れた。
いつもヤられるのは夜だった。こんな昼間からされたのは初めてだったし、こんな穢れた行為とは無縁の筈のこの場所を、自分が汚してしまったかの様な嫌な気分にさせられて、春にとってはショックが大きかった。それに、まだ昨晩の分の精神的・身体的疲労だって残っているのだ。
それなのに……。
「何休んでるの?まだまだこんなもんじゃ満足できないよ」
抵抗すらできないまま身体を抱き上げられて運ばれ、ドサッとベッドに放り投げられた。
スッキリしたばかりの筈なのに鼻息の荒い向田がすぐに伸し掛かってきて、身体を折り畳まれ、挿入された。
「いっぱい愉しませてくれよ。時間はたっぷりあるんだから」
だらしなく笑ってそう言った向田が、正常位で春の中を突きながら唇を塞いでくる。
上も下も、内部を向田に蹂躙されるこの瞬間が春は堪らなく嫌いだ。
でも、それでもいつもなら、何回か我慢すれば終わった。深夜になれば、一人になれた。
でも今日はまるで地獄だ。
明日にならないと解放されないのだ。
一体何度我慢すればいいのか。どれだけ自分を殺して耐え続けなければならないのか。
だが、そんな春の想いとは裏腹に、先程達する事のできなかった春の身体は貪欲に快楽を受け入れていた。
春にとってはそれも自分を苦しめる要因だったが、向田にとっては嬉しいばかりだ。
「春とデートする為にここに来たのに、それよりも一日中春とセックスしている方がいいな」
「そんな…ぁ、ん…ッ」
「それじゃいつもと変わらないか。でも、春も俺といっぱいセックスしたいだろう?」
「ぃや、ぁっ!」
「いやじゃないだろう。こんなにおちんちんビンビンにさせてる癖に。身体はこんなに正直なのに、春は素直じゃないねぇ」
向田はクスクス笑いながら狙いすました様に春のいいところをつついて、春に気持ちとは裏腹の甘い声をあげさせた。
身体の奥底で生じている切ない疼きが絶え間無く襲い続け、頭が朦朧としてきた時、これまで経験したことのない感覚が春を襲った。
たた疼くだけではない。身体の中から何かが沸き上がってきて、腰のあたりに溜まっている様な、妙な感覚。
そして、向田が腰を動かす度に、勃ち上がった性器の先っぽから得体の知れない何かが溢れ出て来そうで凄く怖かった。
「っ…や、やだっ、なんかへんっ!やめて!」
「どうした?気持ちよすぎて変になっちゃうのか?」
向田は春の訴えもお構い無しに深い所を遠慮なく突いた。
「ぁんっ、ちがッだめ、だめぇっ!こわい!でるっ!でちゃうッ…!」
涙目の春がこれまでにないくらいいやらしく喘いで、向田もそれに煽られて激しく腰を打ち付けた。
そして向田が達すると同時に、春のペニスの先から白くてトロリとした液体がドク、ドクと吐き出されて、春の腹を汚した。
それを見た向田は、恍惚とした表情を春に向けた。
「春!精液が出たんだね!春の身体はやっと大人になったんだ!」
何がなんだか分からず放心状態の春に、向田は春の出した白濁を指ですくって見せた。
「ほら、これ。春の初めての精液だよ。凄く美味しそう。俺のおちんちんで突かれて、気持ちよくなって出たんだね…。俺が春を大人にした。あぁ、最高だ…」
向田は幸せそうにそう言って、指についた春の白濁を舌で舐めとった。
春の腹にも直接舌を這わして、全ての白濁を美味しそうに舐めた後に、そのまま春の唇に吸い付き、舌を捩じ込んだ。
春の口の中に微かに苦い味が広がり、まだ初めての射精にぼんやりとした頭で、それでも自分が性器から向田が出すのと同じ物を出したのだと理解した。
精通の知識はあった。
中学校の性教育でも習ったし、春がそういう話にあまり興味がなくても、大抵の同級生はそういった方面に興味津々で、春以外の殆どの同級生がそれを終えている事も知っていた。
だから、いつか自分にも必ずその日が来る事も、知っていた。
こうなったのはただの生理現象である事も、正常な事であることも、頭では分かっていたけれど、それでも春は何かとんでもなくいけないことをしてしまった様な気持ちになった。
何より自分がこうなったきっかけが向田で、そしてそれが当の向田を悦ばせている事が嫌で嫌で仕方なくて、でも誰も責めることはできなくて、その嫌悪感は全て自分自身に向けられていた。
「大人になった春に、ご褒美をあげようか」
強い自己嫌悪に苦しんでいた春に対して向田は新しいおもちゃを見つけた子供みたいに目を輝かせていた。
春の返事も待たずに鞄の中を漁り、取り出したのはボールが5つ連なったシリコン製のアナルボールだ。内部にはバイブレーターが仕込まれていて、スイッチを入れれば振動もするというもの。
表情の堅い春にそれを見せつけるも、春はそれが何をする道具か知らない様で、恥ずかしがるでも拒絶するでもなく、食い入るようにそれを見つめていた。
何かよからぬ事をされるという予測はついているのか、分からないなりに身構えている姿が嗜虐心を煽る。
「これはね、春のお尻を可愛がってあげる玩具だよ。これで気持ちよくしてあげるから、また精液を出す所をよく見せて?」
「いやっ!」
何をされるのかはっきり分かった途端すっかり顔を青ざめさせて逃げようとする春を容易く組み敷いて、うつ伏せの状態でお尻だけ突き出す様な卑猥な格好を取らせた。
暴れた事で春の中に収まっていた向田の精液がツーッと溢れ出してきて、視覚から欲情を誘われる。
2回吐き出したばかりの向田自身がまた頭をもたげてきたが、入れたい衝動を抑えてアナルボールを手にした。
「ッや、やめてっ!」
春の訴えを聞き流し、溢れ出て来た精液を潤滑剤がわりにして、ひとつ目のボールを春の中にズプッと納めていく。
「あはは、可愛い尻尾が生えたみたいだよ」
向田は春の尻から出ているピンク色のボールの連なりを指で弾いた。
春は呼吸を乱してやめてと身を捩って暴れるから、せっかく入ったボールが出てきてしまいそうだ。
「大人しくしていなさい!」
びしゃりと平手で尻を叩くと、春がピクッと身体を震わせて硬直した。
強い恐れを抱いている時の反応だ。
こういう時の春は従順でかわいくなる。
しめしめと笑って2つ目、3つ目…とボールを埋め込み、最後まで銜えさせた所で今度はゆっくり出して、入れて…を繰り返して、春の尻の孔がボールのサイズに広がったり、咥え込んでまた収縮する卑猥な様を愉しんだ。
ボールの刺激に慣れたのか、春の啼き声が甘くなってきた所で奥まで押し込み、バイブレーターのスイッチをいきなり強にして入れた。
「ひぁっ!あ…んぅ…っ」
敏感になっていた内壁に強い振動を与えられ、春の声が一層高くなる。
そのままボールの感触がよくわかる様にゆっくり出し入れを再開する。
ひとつボールが出る度に、孔が物欲しそうにひくひくする様が実にいやらしくて、向田は夢中になって出し入れを繰り返した。
「ああぁっ…!やめ…またでちゃ…ッ!」
「こんな玩具でイくなんて、仕方のない子だねぇ」
「おねが…、もう、だめぇっ!」
「おちんちんこんなにして、ダラダラ我慢汁溢してる癖にダメじゃないだろう」
一定のリズムで出し入れをしながらもう一度春の尻をぴしゃりと叩くと、春の身体が一瞬固くなった。
「気持ちよくなる時は、ダメじゃなくてちゃんとイクって言いなさい」
向田への怯えによる緊張も保てない程、春の身体は与えられる快楽に支配されていて、すぐにくにゃりと力が抜け、言葉にならない喘ぎ声がひっきりなしにあがる。
向田は砕けそうになっている春の腰を片腕で支えて、出し入れを激しくさせた。
「あぁぁあっ!イっちゃ…っ、ぃくぅぅッ…!」
常にない程卑猥な悲鳴をあげた春のペニスから、トクトクとさっきよりも勢いも量も少ない白濁が吐き出された。
「なんていやらしい子だろう」
向田は嬉しそうにそう呟くと、ボールを抜いてから春の身体を仰向けにひっくり返した。そうして、さっき同様腹に飛んでいた春の精液を舌で舐めとった。
春は立て続けに2回も慣れない射精をさせられて身も心もぐったりして呆然としていた。
そんな春に更なる追い討ちをかけるかのごとく、向田は笑顔を見せる。
「やらしい春は玩具も好きみたいだから、これからはいっぱい色んな玩具で気持ちよくしてあげるね。…でも今日は大人になった記念に、もう1つ別の事も覚えて貰わないとね」
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