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鳥籠 1

その日から、春は完全に向田に捕われた。 熱は数日続いたが、向田は看病するどころか、嬉々として春を抱いた。熱に浮かされて快感に従順になる春に夢中だったのだ。 春の熱が下がってからも、どこからか怪しい媚薬を入手してきて春に使うこともあり、そんな時は必ず意識を飛ばす程の快楽に襲われた。 何の気分転換もできずに一日中向田の来訪を待つだけの生活は、春の想像以上に過酷で、春の心はまるで枯れてしまった様に徐々に何も感じなくなっていった。 2週間を過ぎる頃になると、裸にシーツを巻き付けただけの気怠い様子でベッドの上に寝そべり、ただ物憂げな表情を浮かべて窓の外を眺めて一日を過ごす様になった。 一日に2度やってくる向田に、食事や水分を摂らされ、求められれば素直に身体を委ねた。 終わった後は浴室に連れていかれて、丁寧に身体と後孔を洗われた。 向田は堕ちきった様な春を歓迎して、喜んで世話をした。 「やっと手に入った。春が、やっと俺だけの物になった」 そう言って飽きることなく春の身体を蹂躙した。 *** 冬休みが始まっても、紫音には毎日部活がある。 いつも通りの時間に起きて、学校に向かい、半日体育館でバスケして帰宅してからも自主練に明け暮れた。 そんなバスケ漬けの日々の合間で気になるのは、春の事だ。 冬休みも講習に参加すると言っていた春は、結局冬休み中ずっと学校に姿を見せなかった。 初めはたまたま会わないだけだと思ったが、年明けに講習に参加していたらしい元キャプテン米田に会ったので話を聞くと、春は一度も講習に来ていないと言うことだった。 おかしい。ハル先輩は、ずっとどこか変だ。 気づいたのは、あの練習試合の日からだったので、もう2ヶ月近くになる。 春の笑顔を見て一度は安心した紫音だったが、その後もやはり春はどこか表情が乏しく見えた。 話しかければいつもの様に笑ってくれたが、ふと視線を外すと視界に入る春が遠い目をしている気がした。 それに、遊びに誘っても全く乗ってくれず、毎回毎回判で押した様に断られた。 特におかしいのは、あんなにバスケが好きだった春が、いくら遠慮してるとは言え練習を一度も見に来ず、練習試合の誘いも1on1の誘いも断り続ける事だった。 もしかして自分が嫌われているのではないかとゾッとするような考えも浮かんだが、春の紫音に対する態度は、嫌っているそれではなかった。 では、なぜ…? 嫌な予感は募るばかりで、何度か春の住むマンションに足を運んだが、応答はなかった。 いよいよおかしいと確信したのは、新学期が始まっても一向に春が学校に来なかったからだ。 米田を初めとしたバスケ部の先輩達に春の事を知らないか聞いてみたが、誰からも安心できるような情報は得られなかった。 「春は人当たりがいいから皆と仲よかったけど、どっか一線引いてるっていうか、自分を見せない様な所があったから、俺らもあいつのこと深く知らないんだ」 米田がこんな事を言っていて、他の元部員も頷いていた。 紫音は春に対するその評価に驚いた。 少なくとも自分は、春をそんな風に思ったことはなかった。 明け透けなタイプではなかったが、一線引かれているとか、内面を隠してるとか感じたことは一度もなかった。 ハル先輩は俺の前で屈託なく笑ったし、喜んだし、時には苦しみ、涙する姿も見せた。 同級生の部員にも見せなかった心の内側を、俺には見せてくれていたのか…? ハル先輩…。 あなたはいったい今どこで何をしている?

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