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鳥籠 3
「っは、はぁ、あ、こういち、さん…」
「どうした?春」
「お、ねがい、もう…っ」
春の足は、大きくM字に開かれ、その後ろの孔には、真っ黒く光るディルドが、振動しながら向田によって出し入れされている。
「だめ。あと2回イクまでやめないよ」
「っはあ、も、だめっ、おかしくなっちゃ…っ」
「おかしくさせてるんだよ。だから、安心しておかしくなりなさい」
「ゃあっ、だめぇ、も、いっちゃっ…あぁぁっ!」
春の物から、もう殆ど透明に近い薄い体液が勢いなく溢れ、身体が足の先までピクピクと震える。
春の腹の上はドロドロで、これまで幾度となく射精させられていたことがわかる。
射精中は動きを止めていたが、まだ身体が小刻みに震えている内に向田が出し入れを再開させる。
「やだあぁっ!まだだめぇっ…」
「かわいいよ。春はそうやって快楽に染まって啼いている時が一番かわいい。ずっと啼いていればいいのに」
向田がニイっと笑みを深くして、更に激しくディルドを動かす。
向田は最近、春を執拗に何度もイカせて、頭も身体もトロトロに溶けきった所で自身を挿入し、敏感になりすぎた身体に痛いくらいの快感を与えることに凝っている。
時には、昼の来訪時に、グルグルと回転しながら振動するディルドを春の孔に挿入して身動きが取れない様縛り付けて放置し、夜の来訪の時に春が何度かイッているのを確認すると、おもちゃの代わりに自身を挿入するという非道なことまでやってのけた。
春は一日に何度も強制的に絶頂させられ、文字通り精根尽き果てていた。
この監禁によって元より磨り減っていた心は、今や完全に閉ざされ、向田から与えられる行為に、五感も感情も、全てを支配されていた。
春の切ない喘ぎは、この後も1時間以上止められることはなかった。
***
紫音は学校や部活の合間を縫って、春の行方を調べたが、中学生の情報収集力などたかが知れていた。
春の事を知っていそうな人に話を聞くか、春の家に電話をかける、家を訪ねる、同マンションの住人に話を聞く等しか出来なかった。
その中で、ひとつ有力な情報を得た。
いつもの様に春のマンションに行って、中から出てくる住人に春の事を尋ねるとその相手はこう言った。
「あぁ、10階の椎名さんとこの。こないだ…11月中頃だったと思うんだけど、引っ越し業者が10階に入ってて、段ボールを運んでたよ。あっと言う間に1往復で運び終わってたから、単身者の引っ越しだと思うよ。息子さん、家を出たんじゃない?」
おかしい。
そんな時期にハル先輩が引っ越しをする理由がない。
10階の表札は未だ「椎名」の名前がかかっていたし、ここは緑葉中の徒歩圏内だ。
高校入学前に星陵学園の側に引っ越すというのならまだわかるが、なぜ去年の11月に引っ越さなければならなかったのか。
11月と言えば、家族旅行と嘘をついて、ハル先輩が練習試合を見に来なかったあの日も11月初旬だったな。
何か関連があるのだろうか…?
そのあと、他の住人からも、同様の引っ越し業者の話しを聞いた。この情報の信憑性は確かだろう。
つまり、ハル先輩はもうあのマンションには住んでいない。
どこかに引っ越しているということはほぼ確実だが、その行き先を紐解く手掛かりは全く見つからないまま、無慈悲に時だけが過ぎ、もう暦は3月になっていた。
***
「紫音、最近どうだ?」
授業と授業の短い休み時間に、建志がその話を振ってきた。どうだ?というのは、ハル先輩のことだ。
時間さえあれば春のマンションを訪れて情報を探ったり、頻繁に3年の教室に行ったりと普段と明らかに行動の違う紫音を訝しんだ建志に、先月探りを入れられた。
手がかりが得られずいっぱいいっぱいだった紫音は、建志に春のこと全てを話したのだ。
それ以来建志もマンションに行ってくれたり、3年の知り合いに話を聞いてくれたりと協力してくれる様になった。
「何も。そっちは?」
「俺も。やっぱり、松山は無理だな。あれは吐かないわ」
松山とは、春の担任の教師だ。
紫音も一番始めに松山に話を聞いたが、案の定と言うべきか、何も教えてくれなかった。
紫音が大袈裟に「家で倒れてるかもしれない」と言うと、それだけには「無事は確認してるから、安心しなさい」と答えてくれた。
緑葉中では、以前ある教師が、生徒の個人情報を売って金銭を得ていたとして逮捕され、大々的にニュースにもなった事件があった。
それ以降この学校は個人情報の取り扱いにはかなりナイーブになっており、例え生徒にさえ、電話番号ひとつ教えてくれないのだ。
「はぁー。あいつが一番の近道なんだけどなぁ…」
ハル先輩が無事だと知っているということは、松山は居場所を知っているのだ。
しかし、あの教師に口を割らせる手段がない。
口の上手い建志でもダメだったのだ。駆け引きが苦手で何でも直球の自分には手も足もでない。
「…紫音、あんまり塞ぎ込むなよ。もうすぐ卒業式もある。さすがに卒業式には、出てくるんじゃないか?」
「今はそれを期待するしかないな」
藤本先輩も、受験が終わったらハル先輩捜索を再開すると言ってくれている。
きっと、きっと見つかる。また会える。そう信じてる。
***
待ちに待った卒業式の日。
結論から言うと、ハル先輩は現れなかった。
紫音は、最後の最後まで諦めずに待った。
式が終わり、卒業証書を手に3年間の学びの舎から去っていく卒業生達が一人残らず帰ってしまっても、諦めなかった。
日が傾き、自分の影が長くなるのをぼーっと眺めながら待ち、影が闇に覆われて消えてなくなっても校門に立って待ち人を待った。
藤本先輩は、夕方両親に呼ばれて帰っていった。何とも言えない辛そうな表情をしていた。
建志は、お前の気の済むまで付き合うよと黙って側にいてくれた。
校門を閉めに来た警備員に、帰るよう注意され、とぼとぼと歩いた。
今日で、俺とハル先輩の繋がりは絶たれてしまった。
もう、待っているだけでは絶対に会えない人になってしまった。
なぜこんなことに?
俺は、ハル先輩と最後にどんな言葉を交わした?
藤本先輩はまだいい。
別れの言葉と理解することもできる言葉を貰っている。
でも、俺は?
俺は何も貰ってない。
藤本先輩みたいに、自分を無理矢理にでも納得させられる様な言葉も、態度も、何も貰ってない。
こんなんで、別れを納得しなきゃならないのか?
そんなの……。
「紫音…」
建志の呼び掛けにふと我に返る。
建志の表情が物語る。俺は今、きっと相当打ちひしがれた顔をしているのだろう。
「紫音。これで終わりじゃないだろ?こんなんで諦めるのか?」
「諦めたくなんか!…でも、これ以上どうしたら…」
「諦めずに捜し続ければ、いつか絶対に見つかるよ。でも、お前が絶望してるなら、無理だな」
「絶望なんて…」
本当か?
さっき俺は、ハル先輩を諦めることを、無理矢理納得しようとしていなかったか?
納得なんて、できる筈ないのに。
建志の言う通りだ。
俺がこんなんじゃ、見つかるものも見つからない。
こうしている間にも、ハル先輩は一人苦しみ、助けを待っているかもしれないというのに。
「…建志、ありがとう。俺、もう二度と弱音は吐かない」
「ようやく少しマシな顔になったな」
建志が、ニッと笑ったので、紫音もそれに倣った。
かなりぎこちない笑みだったけれど、それでも、力が漲ってくるのがわかった。
俺は、諦めない。絶対に諦めない。
ハル先輩を見付けるその日まで。
いや、ハル先輩を苦しめる何かから救い出すまで、絶対に。
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