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鳥籠 25

「明日は宿泊研修だな」 向田が春の奥深くを穿ちながら呟く。 「全くあの担任…。行かせられないと言っているのに、春がようやく馴染んできたから行かせてやってくれと煩くて…」 春の身体をひっくり返して、今度は正常位で再び深くまで侵入しながら春の口内にも同様に舌を差し込み、唾液が溢れて零れるまで貪った。 「心配で堪らないよ。春が男の群れの中で一泊するなんて…。他の男が手出し出来ない様に、沢山マーキングしておかなくちゃいけないね」 ちぅと、向田が春の身体に吸い付く度に、真っ白な肌には一際目立つ赤い花弁が散っていく。 この日の向田は「マーキング」に執拗で、胸や腹や背中だけでなく、足の際どい付け根や太股にも無数にそれをした。 春はそうされる度に顔を顰めたが、向田は感じていると勘違いしてニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべていた。 春の向田への嫌悪感は、日々募るばかりで、向田と過ごす夜が嫌で嫌で堪らなかった。 向田の顔を見ないように目を閉じて、その声も息遣いもなるべく聞かない様にした。 紫音の姿を思い浮かべて、ただ狂った欲望をぶつけられるだけの時間が過ぎるのを待った。 *** 青年の家には、バスで40分程でついた。 公共施設らしく飾りっけのない、いかにも研修施設といった人気のない建物で、昼食の後は体育館くらいの広さのある大広間に集められて、対人スキルをつけるためというロールプレイやレクリエーションを行い、夕食の後は自由時間となった。 「あーかったるかった…」 部屋に入るなり斗士がぐっと伸びをして備え付けのベッドに座り込んだ。 本来ツインの部屋だが、真ん中に一台エキストラベッドが置かれていて、3つのベッドがぎちぎちに並んでいる。 荷物を置く場所も座る場所もないため、斗士の横の真ん中のベッドに取り合えず自分の鞄を置いて腰かけることにした。 後ろからついてきていた笹原も空いているベッドに陣取った。 「ねむー…。和希ぃ、先に風呂行く?」 「う、うん!」 「春も行ってきたら?」 「そうする」 タオルと学校指定のジャージを持って斗士と笹原は大浴場に、春は担任の部屋に向かった。 こんな身体で大浴場なんて使えるはずがない。担任に手術の痕が…と嘘をついて、教師の部屋にだけ設置されているシャワーを使わせて貰うことになっていた。 ドアをノックすると、すぐに担任が顔を出し、シャワールームに案内してくれた。 シャワーを浴びながら、向田の言っていたことを思い出した。放任主義に見えたこの担任は意外と生徒の事をよく見ているいい教師なのかもしれないな等と呑気に考える。 向田が絶対に来ないと約束された夜は初めてで、いつもこの時間は身構えて強ばっていた身体も心もいつになくリラックスしていた。 本当はゆっくり浴びていたかったが、宿泊研修で、しかも担任の部屋で贅沢する訳にも行かず、頭と身体を洗い終えるとすぐに出た。 「お、早かったな」 「ありがとうございました」 ペコリと頭を下げて部屋を出ようとしたら、担任が会話を続けた。 「向田は…初めはどうしようかと思ったけど、最近は元気そうで先生安心したよ」 「すいません。心配かけて…」 「あとは笹原がもう少し馴染めればいいんだけどな…。望月も気遣ってくれてるけど、向田も今日は同室だし、仲良くしてやってくれな?」 はいと返事をして今度こそ部屋を後にした。 笹原か…。 友達を増やしたいという気持ちは今でもないが、確かに同室なのに何も話さないのはおかしいし、少し話しかけてみるかな。 *** 部屋に戻ると、まだ斗士も笹原も戻っていなかった。 下着を鞄に仕舞ったり制服をハンガーにかけたりしていると、ガチャっとドアの開く音がして、帰って来たんだと目を向けるとそこには笹原が一人で立っていた。 「あれ?笹原一人?斗士は?」 「斗士くんは、リーダーの話し合いがあるの忘れてたって…」 斗士らしい。きっと誰かに言われて思い出し慌てて向かったのだろう。容易にその姿が想像できて、少しおかしい。 「…何が面白いの?」 「あ、いや、斗士らしいなと思って」 笹原は答えた春を一蹴するように無視して自分の荷物が置いてあるベッドに向かい春に背中を向けた。 笹原と少し話をしようと思っていた春は拍子抜けした。 体全体でコミュニケーションを拒絶されている様な気がして、とても話しかける気持ちにはなれなかった。 この部屋に居ても何もすることはないし、笹原と二人きりの空間は居心地が悪くて、施設内を散策でもしようかと思い立ち上がりかけたとき、ごそごそと荷物を漁っていた笹原が口を開いた。 「ねぇ、向田。ちょっと遊ばない?」 「え…?」 「僕今ね、手品に凝ってて。後で斗士くんを驚かせたいから、練習に付き合ってよ」 突然饒舌に喋り始めた笹原に驚いたが、大人しい笹原が懸命にコミュニケーションを取ろうとしてくれているんだと思って、いいよと応じた。 こっちと呼ばれて笹原のベッドに近づくと、シルバーの手錠がその手に握られていて、ぎょっとした。 「脱出マジックとかによく出てくるだろ。ちょっと手貸して」 ぐいっと手を引かれて抗議する間もなく右手にカシャンと銀色の冷たい輪が装着された。 そして間髪いれずにもう片方の輪はベッド柵に固定される。 「あっははは!いい眺め!!」 きょとんとする春をよそに笹原が突然笑いだし、愉快そうに手まで叩いている。 一体何がおかしいのかわからない。 脱出マジックの練習がしたいのなら、この手錠は俺ではなく笹原が装着するべきだろ…。そんなことを思っていると、笹原が何か大声で叫び、ドアが開いて、斗士ではない生徒が3人ゾロゾロと中に入ってきた。 その内の一人には見覚えがあった。 茶髪の長めの髪に制服をだらしなく着崩したその男を見て、嫌な予感が沸き上がった。

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