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飛翔 2

春は呆気に取られてタオルを持って立っていたが、やがて服を脱いで浴室に入った。 すぐに帰らなくてはいけないことは分かっているが、本心はあんな所に帰りたくない。 紫音のお母さんの好意を無碍にできないし、仕方ないんだと自分に言い聞かせて、暫し勢いに身を任せ安息に浸ることにした。 紫音の暖かい眼差しに、大丈夫という言葉。そして、紫音のお母さんのカラッとした様子を見ていると、本当にもう悪いことは全部過ぎ去ったかのような錯覚にすら陥った。 でも、そんな筈ない。 暖かいシャワーの飛沫を浴びながら考える。 …というか、俺はなんで紫音の家にいるのだろう。 今日が土曜日ということは、昨日は金曜日で、1週間ずれてるという訳でなければ、昨日の夜だって孝市さんと一緒にいた筈なのに。 身体を流している内に後孔から体温で温められたぬるい粘液が出てきて、自分が記憶違いをしている訳ではないと分かる。 そしてその感触は、昨夜の出来事をリアルに思い出させた。中に出された精液を許可なく溢した俺に腹を立てた孝市さんに、いつもより酷く調教されたのだ。 孝市さんに手加減なく突かれた後は、いつもより太い道具を前と後ろに入れられて、どれだけ懇願しても出させて貰うことが出来なかった。 そして、結局射精することができないまま昨日の記憶は途切れている。 その後に紫音の家に…? まさか、紫音が俺を連れに来たのか? でもなんで…? 紫音とは別れてもう大分経つ。 結構酷いことを言ったから、嫌われている筈なのに、なんで今さら…? それよりも、孝市さんに紫音が見られていたとしたらどうしよう…。 どうやって許して貰えばいいのか分からない。もう俺の全てを孝市さんに明け渡しているのに、これ以上何を…。 もしかしたら昨夜、孝市さんは泊まらなかったかもしれない。 そして、孝市さんが帰った後に紫音がタイミング良く来て、タイミング良く鍵も空いてて…ってそんな訳ない。 それに、家に入ったなら監視カメラに写っている筈で、それを孝市さんが見逃す訳ない。 ともかく、何にせよ一刻も早くマンションに帰らないと。 携帯も持っていないから、きっと孝市さんはいつも以上に狂ったようになって探しているに違いない。 もしも紫音の事がバレていたら、孝市さんに謝って、たくさんご奉仕して何とか許して貰うしかない。 そうだ…! これまで臭いだけで吐き気が込み上げて一度も命令通り飲めなかったけれど、孝市さんが俺に会えない日に出したという瓶詰めの、既に黄色く変色している精液を飲み干せば許してくれるかもしれない。 俺の事を考えて出したのだから、絶対にいつか飲んで貰うと口の端を歪ませて言っていた。 ついでに孝市さんが最近させたがるあれも進んでねだれば、機嫌が直るかもしれない。 一緒にお風呂に入ると、しゃがんで口を開けるよう言われる。何をされるか悟って嫌がっても、無理矢理跪かされて、顔目掛けて放尿される。 それが終わると、勃起したモノを口に突っ込まれて孝市さんがイクまで奉仕させられ、精液まで顔にかけられる。 それを「汚くて最高にエッチだよ」と満足気に笑って暫く眺める。 それが孝市さんの最近のお気に入りの様だから。 尿も精液もどっちも臭いが強くて、洗った後もその臭いが鼻にこびりついて暫く取れない。孝市さんの言うように、物凄く自分が汚くなった様に感じて、それをされる度にその汚れは蓄積されていった。 汚い物を飲まされるのもかけられるのも最高に嫌だけど、それくらいしか今俺が孝市さんの機嫌を取れる事は浮かばない。 どんな事でも、紫音を守る為ならやろうと思った。 *** 洗面所を出ると、紫音が待ってたみたいに扉の前に立っていた。ちょうどいいと思った。 紫音のお母さんには申し訳ないけれど、あの勢いに飲まれたらまた帰りそびれてしまいそうだから、紫音にだけ帰ると告げたかった。 でも、その前に確認しなきゃいけないことがある。 「紫音、昨日…孝市さんに会った?」 孝市さんと言った時、紫音の顔が物凄く嫌そうに顰められた。 そして、自信たっぷりに言った。 「会ったというか、ハル先輩を奪い返しました」 奪い返した…? 孝市さんの目の前で俺を連れ出したのか? そんなこと、孝市さんが許したのか? 実際俺は紫音の家にいるのだから、紫音の言う通りなのだろう。 でもどうやって…? 改めて紫音の顔を見ると、左頬が少し腫れている様な気がする。 まさか、孝市さんと殴り合って、力づくで…。 そこまで思考を巡らせて、あまりの事態に身震いした。 紫音も、父さんの会社の人たちもきっと無事じゃ済まない! 今すぐ孝市さんに会わないと! 「ハル先輩、また帰るとか言おうとしてません?」 春が口を開く前に見透かされた様に紫音にそう言われた。 それに頷いて紫音の前を通り過ぎようとしたら、間髪入れずに紫音に腕を掴まれた。 その力は痛いくらいで、驚いて紫音を見上げると、その顔は真剣で、少し怒っているみたいにも見えた。あの時、嫉妬に駆られて俺をホテルに連れ込んだ時の顔に似ているなと思った。 「もうあの男…向田のことは心配いらないんです!あいつはもうハル先輩に手出しできません。だから、もうあの男の元に帰るなんて言わないで下さい!」 紫音が強い口調で言った。 心配いらない?手出しできない? それって、まさか―――。 「ハル先輩、ちゃんと説明しますから、着いてきて下さい」 紫音の手は、強く春の腕を掴んで離さなかった。そして、そのまま元いた和室に連れていかれた。 寝かせて貰っていた布団は片付けられ、端の方に立て掛けてあったテーブルが真ん中に置かれていて、そのテーブルを挟んで紫音と向かい合った。 紫音は今にも俺が逃げ帰るとでも思っているのか、まだ目線が鋭かったが、逃げ出すつもりはない。 すぐに孝市さんに会って謝りたいという焦燥に駆られていたが、それ以上に紫音の言っていた事が気になった。 紫音が恐いくらい真剣な顔で「もう向田は手を出せない」と言った、その理由が聞きたかった。 期待している訳ではない。 紫音にだけは知られたくなかった孝市さんと俺の関係を、知られてしまったのではないかと、それだけを危惧していた。 知られた訳ではない事を確認して安心したいのだ。 紫音に知られていると思うだけで心がずんと重くなるから。

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