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飛翔 9

「ちょっと待っ…」 待ってと最後まで言えずに口付けられた。 さっきよりも激しい、欲を感じさせるようなキスだ。 紫音の唇と舌に翻弄されて、息継ぎのタイミングが掴めない。 口から溢れた唾液が顎を濡らして首まで伝った。 唇を離した紫音の瞳が燃え上がる程欲情していて、そんな物欲しそうな目で、いい?と聞かれたら、もう待ってなんて言えなかった。 紫音はまた右側にずれて、さっきと同じ様な体勢になった。 違うのは、右足に紫音の足を絡められて閉じれない様にされたことと、首の後ろの左手が胸まで伸びて乳首を弄んでいる事だ。 もう片方の手はまた下に伸びてきて、前を握って擦った。 さっきイッたばかりなのにまた大きくなったそこは、紫音の手を享受して従順に快感を伝えてくる。 身体も頭も沸騰したみたいに熱くなって、冷静に自分を見れない 紫音の手付きと興奮している息遣いに煽られて、すごくいやらしい気分になった。紫音の足に絡んで動かせない足も、固定されて自由にならない左の手足も、最早興奮を煽るものにしかならない。 「ひゃっ……」 前を扱いていた紫音の指が唐突に後ろに侵入してきて、1ヶ月の間閉じきっていた孔が広げられるその感覚を思い出した。それは、明確にあの男の記憶に直結していて――。 ニヤニヤと残忍な笑みを浮かべながら、指や性器だけじゃなくて、色んな物をそこに入れるあの男の姿が消えてくれない。 紫音のことだけを考えていたいのに…。 あの男の前で俺は人間じゃなくてペットだった。いや、生き物ですらなく物だ。あいつの欲望を満たすための都合のいいただの玩具でしかなかった。 その時の惨めな気持ちと同時にあいつに与えられる気が狂う程の快楽と痛みも甦ってきて、そうされるのは物凄く嫌なのに、身体はもっと酷いやり方を期待して中の指を勝手に奥に引き込む様に蠢き始めた。 嫌なのに。もうあんな風に扱われるのは望んでいないのに…。 「ハル先輩、痛い?」 「ちがう、痛くない。…もっとたくさん入れて…」 「え…でもハル先輩、なんか苦しそう…」 「いいから、もっと激しくして。めちゃくちゃにして…」 それを望んでいる自分がそんな事を口走る。そうじゃない自分は泣きそうなくらいそう扱われるのを嫌がっているのに。 もうどっちが本当の自分なのかわからない。 「俺、どうしたらいいですか?」 「俺のこと気遣わないで、酷くして。俺を壊してもいいから…」 こんなことを言う自分は紫音に幻滅されても罵られても嘲笑われてもしょうがない。でも、身体が、身体に支配されたもう一人の俺自身がそれを望んで自分では止められない。ああされるのは、怖くて堪らないのに。 「ハル先輩……。わかりました。俺のやりたいようにします」 控えめに入り口付近を出入りしていた紫音の指が一気に奥まで入ってきて、慣れない内に引き抜かれてまた奥に入ってきた。 狭い内部を押し広げられる感覚は苦しくて、とても気持ちのいいものではない筈なのに、それを快感と思ってしまう俺はやっぱりとんでもない。 このまま指が増やされたら、もっと苦しくなる。そして、同じくらい乱暴に性器を入れられたら、内蔵がせり上がる様な苦しみと、孔をこじ開けられる痛みを感じて、同時に我を忘れる程の快楽に身を任せられる。 早くそうして欲しい。 少しも気遣われずに物みたいに扱われて、好き勝手に腰を振ってもらいたい…。めちゃくちゃにされて、壊されたい…。 目を瞑って紫音の指を追った。さっきみたく乱暴に動くことを期待して。 でも、それは一度動いた後は奥に入ったままじっとしていた。孔はじんわりと紫音の指のサイズに広がって、疼いた内部が紫音の指に絡み付いている。 そっと目を開けると、心配そうにこちらを見る紫音の顔が目の前にあった。 「ハル先輩ごめんなさい。早く動かすと苦しいんですね。ゆっくりやりますからね…」 「紫音、いい。苦しくても、いいから…」 「俺が嫌なんです。俺はハル先輩を気持ちよくさせたいけど、苦しめたくはない。俺のやり方でやらせて貰います」 宣言通り、紫音はゆっくりと指を抜き差し始めて、焦らされた内壁はその動きに歓喜して勝手に淫らに蠢いた。 いつもの追い詰められる様なやられかたじゃなくて、深く息を吐きたくなるような、緩やかで、でもとても大きな快感だった。 紫音は、俺の顔色と反応を見ながら、緩やかに内部を突いた。もどかしいくらいの優しい刺激なのに、嘘みたいに昂った。一つ一つの動きに内壁がついていって、もうどこを撫でられても気持ちいい。 「あっ…そこは……」 「ここ?ここがいいんだ?」 紫音の指が前立腺を掠めた。待っていたそこへの強い刺激が、焦らされたせいかいつもより数段強かった。 紫音の指がたぶん増えて入ってきたけど、1本でぐずぐずに溶かされていたそこは痛みなんて感じなかった。 さっきよりも増えた質量が気持ちよくて深くため息する。 そして指がまた前立腺を掠める。俺の身体があんまりビクビクして刺激が強すぎるのがわかるからか、グイグイ押したりはせずに、優しく撫でてくれた。 こんなやり方が、強く刺激されるよりも気持ちいいなんてそんなの知らなかった…。 「ふぁ…あっ、し、おん…」 「どうしました?」 呼び掛けると、頬にキスを落としていた紫音の優しくて、それでも強く欲情している瞳がこっちを向いた。 「ゆび…きもち、いい…よぉ。おれ、もうでちゃう…」 「ハル先輩かわいすぎ…。イッていいよ」 「ん…でも、しおんも、いっしょがいい」 紫音が欲しい。グズグズのそこに入れて欲しい。 もうめちゃくちゃにして欲しい訳じゃない。 あいつをなぞるんじゃなくて、紫音のやり方で抱かれたい。 紫音を覚え込ませて欲しい。 あの記憶を、あれで悦んでた自分を紫音で上書きして欲しい。 「おねがい、いれて…?」 横からこちらを覗き込んだまま固まっていた紫音が、身体を起こした。 「俺だって、ハル先輩とひとつになりたい。ハル先輩を抱かせてください」 「うん、紫音。きて……」 紫音は、身に纏っていたはずのズボンはいつの間にか脱いでいて、股の間に移動した。 挿入しやすい様にか、尻の下にクッションを敷かれて、紫音の眼前に後孔を晒されている様で恥ずかしい。 「痛かったらすぐ言ってくださいね」 コクコクと頷くと、紫音が優しい笑みをくれて、右足を抱えあげるとそこに性器をあてがった。 ぐっと押される様にされて、指では広がりきれなかった所までどんどん入り口が広げられる。 いつもはこうされるのが心の底では嫌で、いつもそこに力が入っていたけど、今日は紫音に溶かされていたし、心から受け入れたかったせいか、変な力が入らず、痛みも少なかった。 「痛くない?」 「ん…すこし。でも、大丈夫…」 こんなの、痛い内に入らない。 それよりも、紫音の問いかける声が吐息交じりで熱がこもっていて、俺の身体で感じているのかと思うと嬉しかった。 こうされて嬉しいなんて…。 この感情は始めてだ。 「ごめん、ハル先輩痛いって言ってるのに…」 気持ちよくて止められないと紫音が切なそうに言う。 止まってるみたいにゆっくり入ってきているので、入り口が広げられる軽い痛みと違和感だけだ。 「大丈夫。いたくない。おれも、はやく紫音がほしい、から…」 「ハル先輩…」 濡れた声で呼ばれて、目が合うと自然な流れで紫音が覆い被さってきてキスをした。 受け入れる様に首の後ろに右手を絡ませてピッタリと抱き合う。 こうしているともう入り口の違和感も全然気にならなくなった。 紫音の熱いモノが埋まっていく充足感しかない。甘い口づけからは深い愛情を感じて物凄く満たされた気持ちになる。 想っている相手と身体を合わせると、こんな気分になるんだ。 やっている事は同じなのに、与えられる感情も感覚もまるで違う。 「…全部、入りました。苦しくないですか?」 唇を離した紫音がはぁ、と深く息をついて言った。 「ん…だいじょうぶ。…紫音は?」 「俺は…すごく気持ちいいです。もう、ずっとこうしてたいくらい…」 「よかった…。紫音がきもちよくて、おれ、うれしい…」 紫音は動いていないのに、また中が刺激を求めて蠢いて、入り口もヒクヒクと紫音を締め付ける。 入ってるだけなのに息が上がって、変な声まで漏れそうになる。 「やばい…。ハル先輩の中、気持ちよすぎる…。動いてもいい?」 もうこっちの腰が勝手に動いてしまいそうだったので、早く動いてとコクコク頷いた。 紫音の腰が少し引かれてずんと奥を突かれた。抜かれる感覚も入ってくる感覚もどっちも気持ちよくて、はあはあと熱を持った吐息が抑えられない。 紫音の動きがだんだん大きくなってきて、規則的に揺らされる。 「ハル先輩、気持ちいい…?」 「んっ、しおん…すごくきもちいい」 快感に潤んだ目で紫音を見ると、紫音も眉間に少ししわが寄ってて、余裕のない顔をしていた。 目が合うと、上体を倒してきて、キスされるんだと思った。 「…春、愛してるよ」 唇が合わさる直前にそう言われて、頬が熱くなった。 紫音に名前を呼んで貰ったのは初めてだった。紫音しか呼ばない「ハル先輩」という呼び名にも愛着はあるが、名前を呼ばれるのは単純に嬉しいし、いつも呼ばれてないから少し照れる。 唇が離れてから、俺もと答えた。ちゃんと愛してると言いたかったけど、紫音の律動に感じいって、喋る余裕がなかった。 「ハル先輩、ごめん。早いけどもうイきそう…」 「しおん、おれも…」 「じゃあ、一緒にいこうか?」 頷くとまたキスをしてくれて、深く唇を合わせながら激しく中を穿たれて、紫音の唇に塞がれながらも息継ぎと共に声が漏れた。 「ふ…はあっ……あ…ッ」 だめ。もう出る…。 そう思った時、紫音が身体を起こした。一気に紫音のが抜かれて、その刺激で達してしまう。 紫音も抜いたと同時に達して、俺の身体は2人分の精液に濡れた。 「はぁ、はぁ…」 絶頂直後の徐々に熱が冷めていく中、紫音の身体が覆い被さってきて、お互いの出した物で肌が汚れるのも構わず、強く強く抱き締められた。 「春、愛してる」 紫音の囁きが甘くて、合わさった身体が熱くて、このまま二人で溶けてしまいそうだと思った。 幸せだった。

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