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飛翔 13

紫音は俺がリハビリに行っている間に一旦自宅に帰り、昼過ぎに泊まるための荷物を持ってまた来てくれた。 病院の送迎をしてもらっている車の中で母に紫音が泊まることは伝えてある。「春がお友達を家に連れてくるのは久し振りだから嬉しい」と言って歓迎してくれた。 そう言えば小6のあの事件以降友人を家に招いたことはなかった。 自分に似てとても鈍くて天然な所もある母だけど、俺の変化を知っていて、たぶん心配していたんだろうなと、はたと気づかされた。 夕食時、紫音はすぐに俺の両親と打ち解けて、紫音に自分の両親をお父さん、お母さんと呼ばれると、なんだか気恥ずかしかった。紫音に他意はないのだろうが…。 その夜、母が俺の部屋のベッドの横に紫音が寝れる様に布団を敷いてくれた。 初め紫音は用意して貰っていたそこに横になって、俺は自分のベッドに入っていたが、話をしている内に何をきっかけにか「そういう」雰囲気になった。 「そっち行ってもいい?」 「あ、うん…」 紫音が起き上がったので、入りやすいように壁側に身体をずらすと、ゴソゴソと俺の狭いベッドの中に紫音が入って来た。2週間ずっと紫音の部屋の同じく狭いシングルベッドで一緒に寝てたのに、紫音の顔が間近にあって、肌が触れ合うのは何度経験しても照れる。 「紫音、だめ…だよ」 紫音の手が意味あり気に動いたので、その手をやんわり掴んで小声で言った。壁1枚挟んで隣の部屋では両親が寝ているのだ。とてもそういう事はできない。 「ごめんなさい、つい…」 俺の言う意図がわかったのか、紫音は素直に手を引いてくれた。…けど、身体はまだ俺の上にのし掛かったままで…。 「…でも、キスだけならいい?」 そんなことを鼻が触れ合いそうなくらい近くで言われたら、頷くことしかできない。 心臓が煩いくらいにバクバクして、唇も身体もぴったり合わせた紫音には、この音はきっと聞かれていると思う。 唇を優しく食まれて、熱い舌でなぞられて…。 唇だけじゃなくて、頭の中まで蕩けそうなくらい甘くて、全身熱くなった。 でも、飽きることなく抱き合ってキスだけを何度もした。 愛されている幸福感に満たされながら、心地よく意識は沈んでいった。 *** 目を開けると、肘を付いて頭を支えた紫音がこっちを見ていた。 カーテンを透かして強い光が部屋に射していて、朝なんだとわかる。 「おはようございます」 こちらをじっと見つめたままにっこり綺麗に笑う紫音を見たら、昨日の蕩けるようなキスを思い出して、頬が熱くなった。 「ハル先輩、すやすや眠ってた」 「ずっと見てたのかよ…」 熱かった頬がカーッともっと熱くなるのを感じる。いつから見られていたのだろう…。 「どこかのお姫さまみたいに綺麗だったから、つい見入っちゃいました」 「やめろよ…」 女扱いされるのは嫌いだった筈なのに、紫音にそう言われても嫌じゃない所か恥ずかしくてしょうがない。 「ほんっとに可愛いなぁ。…でも、昨日は嫌な夢、見なかったでしょ?」 「そう言えば…」 昨夜はいつの間にか寝入って、夢も見ずに眠っていた。 「あのキスが効いた?」 突然耳許で囁かれて、またリアルに昨晩を思い出してしまう。 でも…恥ずかしいけど、そう言うことだ。あいつの入る隙もないくらい、紫音の事を考えていたから…。 チュッと軽い口づけが降ってきて、少しだけ考えていたあいつの事がまた頭から追い出された。 「もうあんな夢見せないよ。俺がずっと傍にいるから」 紫音…。 紫音が本当にずっと傍にいてくれたらいいのに。 あいつの事なんて考える隙もないくらい、いつも紫音を感じていれたらいいのに…。 *** それから毎日紫音と同じベッドで寝て、キスをしながら眠りについた。 紫音が「見せない」と言った通り、あの夢は一度も見ることはなかった。 春がリハビリに行く午前中は、紫音も用事を足しに行くと言って出掛けていたけれど、午後からは帰ってきて一緒に過ごした。 紫音は母さんとすごく仲良しになって、俺が母さんと二人きりの時よりも会話が弾むので、母さんも楽しそうにしていた。 父さんは相変わらず仕事が忙しくて、夕食を一緒にできたのも数える程度だったけど、自分の会社を取り戻した父さんは生き生きしていて、本当によかったなと思う。それを取り戻してくれた紫音には、本当に感謝してもしきれない。 春休みも明日で終わりで、紫音と一緒に眠れるのも、今日で終わりだ。 こんなに紫音に寄り掛かるのも、今日で最後にしなきゃいけない。 この日がくるのは初めから分かっていたから、毎日自分に言い聞かせていた。甘えるのは春休みまでだと。 最後の夜である今日も、自然な流れで一つのベッドに入った。 カモフラージュの為に床には布団が敷いてあるけど、結局一度も使っていない。 今日は一つ決めている事があった。 毎日キスだけをしていたけれど、その度に、足に硬い物が当たる事にはずっと気づいていた。 自分の身体も熱くなっていたけれど、それ以上に紫音は昂っていて、日に日に張り詰めている様な気がした。 いつもそれを抑えて俺を安心させて眠りにつかせてくれる紫音に、今日はお礼がしたいと思った。 紫音の昂りを、解放してあげたいと。 いつもの様に口付けられると、すぐにそこが大きさを増した。 右手を伸ばしてそれを確かめるように触れると、紫音がびっくりした様に腰を引いて、同時に唇も離れた。 「ちょっと、ハル先輩!」 紫音は赤面して少し慌てている様だ。 「紫音がいつも辛そうだから…嫌じゃなかったら、手伝わせて?」 ボッと音がするくらい一瞬で真っ赤になった紫音は、それでもその目は欲情していて、そこもまた大きさを増した気がしたので、構わずまたそこに触れた。 やっぱり、大きくなってる…。 スウェットの上からそれの輪郭を撫でるように触ると、どんどん硬さが増して、グイグイズボンを持ち上げた。 紫音はもう逃げなくて、キスしていた体勢のまま唇だけ離して固まっている。 「ハルせんぱーい…」 紫音が少しだけ泣きそうな声で言うから驚いてその目を見つめたら、いきなり俺のを紫音に握られた。 「ちょ…だめだよ、俺は…」 「何で?ハル先輩も一緒がいいです」 「だって……」 「だって?」 俺は…。 「…変な声、出るから…」 目を逸らして言うと、紫音の止まっていた手が動き出して、言った通りの変な声が短く出た。 だからダメだって…! 「変な…じゃなくて、可愛い声でしょ?本当は聞きたいけど、こうすればいい」 目の前にあった紫音の顔が認識できなくなるくらい近づいて、唇を唇で覆われた。 抗議の声も、変な声も、全部紫音の口の中に吸い込まれる。 *** 紫音の手はすぐにスウェットのゴムの隙間から中に入ってきて、直接そこを刺激された。久し振りのその感触にすぐに身体全体が火照りだす。 俺が紫音を気持ちよくさせたかったのに、これじゃ違う。だって、身体が言うことを聞かなくて、紫音を触った手をちゃんと動かすこともできない…。 抗議したくても、唇はぴったりと紫音に塞がれて、おまけに舌も絡まっていて言葉が出ない。 紫音の手が俺の手を掴んで、紫音がそうしてるみたいに紫音のズボンの中に導いた。 「一緒に…」 紫音は口をほんの少しだけ離してそれだけ言うとまた唇を塞いだ。 紫音にも気持ちよくなって貰いたい。 その一心で紫音がそうしている様に握った手をともかく上下させた。 甘い口付けと、下半身の直接的な快感に絶頂感はすぐにやってきた。 察した紫音の手の中に白濁を放つと、紫音のもパンパンに膨らんだので紫音を真似て手で紫音のものを受け止めた。 何度か名残惜しそうに唇を啄んでから紫音の唇が離れて、優しく微笑むとすぐに机の上からティッシュを取って、丁寧に俺の手を拭いてくれた。 「ありがと…」 俺の手を拭いてくれている紫音の手は大きくて、指は男らしく節くれだっているけど、長くて綺麗だ。 この手がさっきまで俺の物を触っていたんだと思うと、…複雑な気分だ。 「ハル先輩、ありがとう。俺すごい気持ちよかった」 「ん…俺、も」 紫音は本当に満足そうに言ってくれて嬉しかったけど、自分も図らず気持ちよくさせられてしまったので恥ずかしい。 「春かわいい」 紫音にポンポンと子供がされるみたいに頭を撫でられる。紫音は時々こうして不意打ちの様に名前を呼ぶ。 俺の方が年上なのに、こういう時は紫音の方が落ち着いていて、必ずリードしてくれるので、年齢が逆転したみたいになる。別に先輩面したい訳じゃないからいいけど…。 「明日は引っ越しですね」 紫音が隣に潜り込みながら言う。 それを考えると急速に気持ちが落ちていった。 紫音と離れなきゃいけなくなるから。 「…そうだな。ここにいられるのも今日で最後だ」 この部屋にいるのはあんなに嫌だった筈なのに、今では一日でも長くここにいれたらいいのにと思うようになっていた。 今更ながら自分にとって紫音の存在がどれ程大きいか思い知らされる。 「一人暮し心配ですか?」 俺が落ち込んだのがわかったのか、紫音が気遣ってくれた。 紫音に心配かけるわけにはいかない。 明日から紫音は夢に向かって新しい一歩を踏み出すんだから。 俺のこと気にかける余裕なんてなくなるんだから。 「ううん、大丈夫」 「明日もし怖い夢見たら、すぐ電話くださいね」 「うん」 紫音ありがとう。 でも、俺明日からは紫音に迷惑はかけないようにする。 紫音の夢を応援するよ。 負担にならない様にするから、紫音が夢を叶える所を見守らせて。

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