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飛翔 14

引っ越しは無事終わって、夕飯は手伝ってくれた紫音と両親と一緒に縁起を担いで蕎麦を食べた。 夕飯が終わると、19時頃に父さんと母さんは少しだけ寂しそうに東京に戻った。 紫音に一緒に乗っていく様俺も両親も言ったが、電車で帰るからまだもう少しいますと譲らず、紫音だけは残ってくれた。 荷物の整理を一緒にしてくれて、一通り終わって時計を見たらもう21時を回っていた。 「紫音、明日入学式だろ?もうここは大丈夫だよ」 「俺はまだまだ全然いられます」 「駄目だって。星陵だから、早速明日から練習始まるかもしれないぞ?紫音は、バスケの事を一番に考えなきゃ」 「ハル先輩、俺……」 ん?と首を傾げて紫音の答えを待ったけど、紫音は少し考えた後に何でもないですと言って口を噤んだ。 改めてもう帰る様言うと、紫音は仕方なさそうに腰を上げた。 「何かあったら、絶対にすぐ電話くださいね。遠慮なんてしなくていいですから」 「うん、分かってる。ありがとう」 駅まで送っていくと言ったが、帰りが心配だからと言われて断られた。 玄関を出る前に一度抱き締められて、キスしてくれた。 こんな風に触れあっていると、隠そうとしている寂しい気持ちや不安な気持ちが表に出てこようとする。 甘えちゃ駄目だと必死に自分に言い聞かせて、紫音の背中を見送った。 誰もいなくなった部屋は、家具や家電、馴染みの自分の私物もあって、あの悪夢の様なマンションとは全然違うのに、一気に静かになって少し怖かった。 見たい番組がある訳ではなかったが、静かなのが嫌で取り合えずテレビをつけて、バラエティーにチャンネルを合わせる。 ドラマや映画は苦手だ。 唐突にレイプシーンなんかが始まる事があるからだ。入院中一人の時に適当につけていた番組でそれを見て、フラッシュバックの様な症状が起こった事があった。以来テレビは殆どつけないか、つけてもバラエティーやクイズ番組に合わせるようにしている。 気を紛らわせる様にシャワーを浴びて、細々とした物の整理をしていると、別れてから1時間もしない内に紫音から着信が入った。 もう家に着いたのなら随分早いなと思ったが、電車の乗り継ぎが上手くいったのだろう。 『ハル先輩、何ともない?』 開口一番がこの言葉で、思わず心配性だなぁと苦笑してしまう。それだけ思ってくれているのは、本当はすごく嬉しいけど。 『だってハル先輩が一人でそこにいるって思ったら、やっぱりすごい心配ですよ。チャイム鳴っても、出ちゃ駄目ですからね!』 「うん。でも紫音、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。……ああいう、男をどうこうしようって奴は、そういないと思うし…」 『ハル先輩はわかってないなぁ。男はみんな狼だと思った方がいいですよ!』 少し大袈裟だなとは思ったけど、俺だって二度とあんな奴に目をつけられるのはごめんだ。それくらい警戒心を持てという事だろう。素直に注意するよと返した。 暫く電話で話していると、紫音の声が耳に心地よくて、引越しで疲れた身体は眠気を訴え始めた。 『ハル先輩、眠いんだ?』 「うんちょっと。何で分かるんだ?」 『ハル先輩の声を聞けば大抵のことは分かりますよ。…あれ、俺ちょっと変態っぽいですか?』 紫音がおどけるから、クスリと笑ってそんなことないよと言った。 「紫音の声、安心するんだ」 『それすごい嬉しい。…ハル先輩、もうベッド?』 「うん。さっき入った。部屋も暗い」 『そっか。あーあ。そのベッドに俺も入りたいです』 「ふふ…。俺も、紫音に隣にいて欲しいな……」 もうかなりうつらうつらとしていて、頭が回転しない。つい本音が漏れたけど、冗談の延長だし、いいよな。 あぁ、もう駄目だ。本当に眠い……。 『もう寝ちゃいそうですね。おやすみ春。……大丈夫、今日も怖い夢は見ないよ。俺がこれからもずっと傍で守るから………』

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