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第3話

本当なら、もっと騒いで喚き散らしたいところだ。 でも、そんな事をしたらこの男の思うツボだ。 だから必死に荒ぶる気持ちを抑えた。 素性が分からない以上、下手に行動を起こすのは危険だ。 この男とこうなった経緯は気になるところだが、何より今はこの気持ち悪さから早く解放されたい。 俺は身体を起こした。 キシキシと身体が軋むのを感じた。 「どちらへ行くつもりなのだい?」 「…シャワーに決まってるだろ…」 「そう。けれど、急には立ち上がらない方がよいよ。無理をさせてしまっているのだからね。」 ラブホのような下品さはない… かといって生活感もない… 多分普通の… いや、普通より上等なホテルだ。 ホテルならいちいち許可はいらない筈だ。 ベッドから降りて立ち上がった瞬間、膝が折れてその場にしゃがみ込んだ。 「痛…ッ!!」 「俺は、忠告をしたよ。」 男は驚いたように言った。 少し動揺したのが相手の目の動きから分かった。 いや、俺に動揺したわけじゃない。 まるで、自分に対して動揺しているようにすら感じる。 「クソッ…初めてのヤツを立てなくなるまで掘るとか…鬼畜か…」 「……君…初めて…だったのかい?…」 「あたり前だろッ!」 「…経験豊富な印象を受けたのでね。まさか、初めてだったとは…」 「…まぁ、豊富なのは否定しない。」 「ふふ、否定はしないのだね。」 「あぁ。…でも、これだけは言っておく!俺に突っ込まれる趣味はない!!」 「そうなのかい?…けれど、俺の下で乱れる君はとても可愛らしかったけれどね。」 「ッ…ふざけるな!」 いや、この男は動揺なんてしていない。 動揺していたらこんな台詞は吐けない筈だ。 突っ込まれてヘバッておきながら、突っ込む方だと主張したところで説得力がない。 男が差し出してきた手を突っぱねて、自力で立ち上がるとヨロヨロしながら浴室に向かった。

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