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第8話

窓際の席は逆光で客の顔まではよく見えない。 遠慮がちに低く上がった手を辿って席まで行き、客の顔を見た瞬間固まった。 「やぁ、蹴人。また会えたね。」 思わず白目をむきそうになった。 そこに居たのは八神総一郎… 今一番会いたくない人物だった。 驚いた俺に八神はご満悦だ。 できる事ならもう二度と会いたくなかった。 そんな相手に1日に2回も会うなんて俺はつくづくついてない。 「お前、どうしてココに…」 「正面のビルが俺の勤務先だからだよ。偶然入ったお店に君が居るだなんて驚いたよ。あまり運命などは信じないのだけれど、運命を感じざるを得ないね。」 「運命って…」 「いや、運命と言うよりかは必然と言うべきだろうか。君と俺は出会うべくして…」 「黙れ。」 その先を聞くのはあまりに怖すぎる。 正面のビル… そこはこのオフィス街でも一際デカいビルだ。 いかにもエリートってヤツが働いている印象がある。 たまにデリバリーサービスで行く事があるからよく知ってる。 「デリバリーサービスを利用しようかとも思ったのだけれど、横着をしないで正解だったようだね。またこうして君に会う事ができたのだから。」 「そうでしたか。お仕事がお忙しいようですから、次回からは是非、デリバリーサービスをご利用ください、お客様。」 俺はこれでもかって程の営業スマイルで言った。 「君が届けに来てくれるのであれば是非利用させてもらうよ。」 八神が余裕たっぷりに笑って、一番奥の人目につかない席なのをいい事に腰に手を回して撫で始めた。 「ッ…ふざけるな…」 「とても辛そうだったのでね。君を残して帰ってしまった事を酷く後悔していたのだよ。きちんとタクシーで帰宅したのだよね?」 「あぁ…とても帰れる状態じゃなかったからな。」 タクシー代には感謝している。 しかし、そんな事は絶対に言わない。 「そのような状態でもアルバイトは休まないのだね。」 「当たり前だ。バイトとはいえ仕事は仕事だ。簡単に休むわけないだろ。…で、注文は?」 「では、アイスコーヒーをお願いしようかな。」 「アイスコーヒーですね、かしこまりました。後程お持ちしますので、ごゆっくりお過ごしください。」 「ありがとう。」 (いいや、帰れ!今すぐ帰れ!!) ホントなら摘まみ出してやりたい気分だ。 そんな気持ちを堪えて頭を下げた。

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