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第9話
立ち去ろうとした瞬間、腰だけじゃ飽き足らずケツを揉まれた。
「ひッ!」
変な声が出て慌てて口元を押さえた。
それと同時に腰が抜けてしゃがみ込んだ。
「ふふ、大丈夫かい?」
「大丈夫なわけないだろ!お前、どういうつもりだ!!」
そのまま立ち上がれなくなった。
情けない…
大丈夫かと平然と言った八神を睨み付けた。
「困ったね。さて、どうしたものか…」
八神は楽しそうだ。
腹立つ…
「シュート、どうした?」
ナイスタイミングで颯斗がしゃがみ込んでいる俺に声を掛けた。
このまま八神の近くに居たら何をされるか分からない。
一刻も早くこの場を離れたかった。
「お店の人かい?席を立とうとした際に転倒させてしまってね。君、申し訳なかったね。大丈夫かい?」
わざとらしい事を言えたものだ。
腹が立つ…
「え、そうなんですか?彼は丈夫にできてるので大丈夫だと思いますけど、寧ろお客様に怪我はないですか?…って、あれ?」
颯斗が何かを言いかけると、八神が人差し指を自分の口元に持っていってそれを制した。
「えーと…あー…うー…んと…アソコノビルノイケメンサンジャナイデスカァ。あはははは…」
何故か颯斗は片言だった。
颯斗が言う通り、確かに八神はイケメンだ。
いや、イケメンというよりは綺麗めな部類…
それに、よく見るとスーツ姿とかもさまになっている。
でも、実際は寝ている俺にブチ込んでくるような変態クソ野郎だ。
「君、少し彼を休ませてあげてくれるかい?万が一にも、頭を打っていたり、怪我などをしていると大変だからね。」
俺は颯斗の肩を借りてバックヤードに向かった。
「颯斗、さっきの客は知り合いなのか?」
「サァテ、ナンノコトカナ?」
「お前、片言になってるぞ。」
「はっ!ま、まじ?………あー…んー…ほら、そうそう、あれだ。デリバリーサービスで行った時によく会うんだ。颯斗くんはイケメンの顔は忘れません!」
八神があそこで働いているのはホントの事らしい。
俺もたまに店長に頼まれて行く事があるが、八神には会った事がない。
正直、八神は好みのタイプだ。
颯斗じゃないが、一度会ったら忘れないと思う。
「颯斗。お前は取り敢えずホールに戻れ。俺はもう大丈夫だ。」
「ん。無理そうなら店長に言って早退しろよ?」
「ったく、お前は母ちゃんか。」
颯斗は心配そうに俺を見てからホールに戻った。
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