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第10話
颯斗とは、幼なじみだが、それだけじゃない。
セックスもする仲だ。
初めてヤったのは、中2の時…
確か、颯斗が付き合ってたヤツにフラれた日だったと思う。
颯斗は、デカい図体の割に淋しがり屋だ。
だから、別れたらすぐに次の相手を作る。
あまりにコロコロ変わるから、そこに愛情があるのかは分からない。
でも、颯斗が惚れやすいタイプなのは確かだ。
颯斗とそうなる事に正直抵抗はあった。
でも、泣かれて甘えられたら拒否できるわけがない。
俺は颯斗とは全く逆のタイプだ。
特定の相手は作らない。
ヤりたくなったら適当に引っかけてヤればいいだけの事だし、引っかけるまでもなく相手はいくらでも寄ってくる。
だから、有り難い事にそういう相手には困らない。
颯斗とは、お互いに都合がいい関係だ。
颯斗にとって俺は、新しい相手ができるまでの繋ぎだ。
デカい図体して、俺の下でアンアン言ってる颯斗は正直可愛いと思う。
あんまりアンアン言うヤツは好みじゃないが、颯斗だけは可愛いと感じる。
それに、身体の相性も悪くない。
最近は欲しがらないから、新しい恋人ができたんだと思う。
颯斗は淋しくなった時にしか求めてこない。
だから、多分そうなんだと思う。
「帰るか…」
店長に体調が悪い旨を伝えて店を出た。
あまりの身体の怠さに、歩いて帰る気がしなかった。
八神にもらった金が、まだ余っていた事を思い出してタクシーを拾って帰った。
やっぱり階段はキツい。
錆び付いた鉄階段を音を立てながら登る。
その音は、力が入ってるせいかいつもよりデカい気がする。
部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。
少しだけ身体を休ませるだけのつもりだったが、寝ていたらしい。
起きた時には22:00を過ぎていた。
家に帰ってきたのは14:00くらいだったと思う。
俺は、大分長い間寝ていた事になる。
軽く身体を伸ばしてから起き上がった。
普段なら、シャワーも浴びないでベッドに上がるなんて事はない。
部屋の電気を付けて、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出して喉を潤した。
腰の鈍痛はだいぶマシになったが、まだ喉が痛い。
慣れない声を出したせいかもしれない。
あの気持ち悪い声を思い出すだけでも吐きそうだ。
もう一口飲もうとした時、スマホが鳴った。
液晶に浮かんだのは知らない番号だった。
恐る恐る通話ボタンをタップした。
「………はい。」
「こんばんは、蹴人。八神だけれど、分かるかい?」
電話に出た瞬間、後悔で白目を剥きそうになった。
いや、剥いた。
八神総一郎…
今日という日を厄日にしたヤツだ。
「…」
「少し、様子が気になってね…」
「お前のせいだろ。」
「ふふ、その様子であれば心配をする必要はなさそうだね。安心したよ。…ねぇ蹴人、来週の土曜日なのだけれど、空けておいてもらえるかい?」
「は?…」
「都合が悪いのかい?」
「バイトがある。」
バカ正直に答えた事を後悔した。
ココは嘘をついてもいいところだ。
「アルバイトは、何時頃に終わるのだい?」
「18:00…だ。」
また正直に…
なぜか嘘がつけない。
八神の声がバカみたいに甘ったるいせいだ。
まるで当たり前のように言葉が飛び出した。
「そう。では18:00にお店まで迎えに行くよ。」
「ちょ、おい、俺はまだ行くとは…」
「土曜日をとても楽しみにしているよ。…おやすみ、蹴人。」
俺の返事も聞かないまま通話は切られた。
「くそっ…」
盛大に溜息を吐いて、スマホをベッドに投げ付けてから残りの水をゴクゴク音を立てながら喉に流し込んだ。
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