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第11話

その次の日から、レポートやらバイトやらで毎日をバタバタと過ごしていた。 学校、バイト、徹夜… あっという間に土曜日になった。 「おはよう、シュート。」 タイムカードを押しながら声をかけてきたのは颯斗だ。 俺の予想通り、颯斗には新しい相手ができていた。 八神が働いてる例のオフィスの社長秘書らしい。 一体そんな人物とどこで出会ったのか… 報告を聞いたその日から、颯斗の惚気話を毎日聞かされている。 正直なところ激しく迷惑だ。 疲れた身体に颯斗のハイテンションはなかなか堪える… 「おい颯斗、幸せ風吹すな!」 軽く頭小突くと、颯斗が抗議の目を向けてきた。 「ちょ、なんなのさ、シュートひっでぇ~。」 ロッカールームで着替えながらアホな会話をする。 まるで、高校生が体操着に着替えながらするような会話だ。 昼礼が終わって、ホールに出た。 オフィス街というのもあって、土日は割と暇だ。 店内が暇な時こそ普段できない仕事できる。 暇な時程忙しいと言うが、その通りだ。 あっという間に時間は過ぎていった。 タイムカードを押して、ふざけながらも急いで着替えを済ませて、颯斗とは店の前で別れた。 急いでいたのは、約束の時間を10分もオーバーしていたからだ。 店の外にはまだ八神はいなかった。 人を待たせるのは好きじゃない。 待たせるくらいなら、待った方がマシだ。 だから少しホッとした。 それから30分… そして1時間… そこから更に1時間… 合計2時間半… 八神が来る気配はなかった。 日中は暖かいが、夕方を過ぎれば外はまだ冷える。 2時間半も律儀に待っている自分がバカみたいに思えた。 そもそも、この約束は俺が望んだわけじゃない。 強引に約束をさせられた挙句、コレだ。 「ふざけるな…」 腹が立ちすぎて握った拳に力が入った。 そんな状態にも関わらず、更に30分待った。 でも、八神が来る事はなかった。 来たら今度こそぶん殴ってやろう。 最後の30分はそんな理由からだ。 俺は寒空の下、一つくしゃみをして鼻をすすりながらその場を離れた。

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