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第18話

電車に乗って、二人でチョコを食いながら喋っていると駅に着いた。 バイト先は駅からそう遠くない。 店内に入って適当に座った。 「珍しいな。二人にはいつも頑張ってもらってるし、半額でいいぞ。」 「流石は我らが店長!…じゃぁBセットで!!飲み物はアイスティー。シュートは?」 「俺は、Aセットとアイスコーヒーでお願いします。」 「そういう事で店長、よろしくお願いしまーす。」 「おい新見…。遠慮を知れ、遠慮を。俺が渡瀬に怒られるだろ。」 ちなみにBセットは店で一番高い。 普通は遠慮をしてAセットを頼むところだが、颯斗に遠慮なんてものを求める方が間違っている。 あの強面の渡瀬さんに怒られるのかと思うと店長が不憫で仕方ない。 ちなみに渡瀬さんはキッチン担当だ。 肩を落とした店長が奥に引っ込んで行った。 「こういう時は一番安いの選べよ。店長が可哀想だろ。」 「えー、こういう機会でもないと食えないじゃん、Bセット!!」 「まぁ、確かにその気持ちは分からないでもないが…」 「だろ?シュートもBセットにすればよかったのに。」 高いと言っても、カフェのランチの値段なんてたかが知れている。 ただ、安いに越したことはないという話だ。 普段ホールに出る時は常に店内を見渡している。 つい癖で店内を見ていると窓際の奥の席に座っている人物と目が合った。 あれは間違いなく、八神だ。 最も会いたくない人物… そらそうとした目が、何故かそらせない。 瞬きさえも許さないような目… 金縛りにでもあったような感覚だ。 ゆっくり近づいてくる。 思わず立ち上がると椅子が音をたてた。 詰め寄られた分だけ後ずさる。 俺の動きを止めたのは、壁だった。 もう、これ以上は逃げられない… 八神が、俺まであと三歩くらいのところで足を止めた。 「蹴人…」 無視しまくった事を怒っているのかと思った八神の目は、近くで見ると怒るどころか不安気だった。 「…」 「蹴人、この間は連絡もせずに申し訳ない事をしたと思っているよ。」 「…」 「…何故電話出てくれなかったのだい?」 「…」 なにも話さないのはズルい… そんな事は分かっている。

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