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第21話
八神に続いて俺もエレベーターを降りた。
最上階には扉が一つしかなかった。
つまり、この階の全てを八神が所有している事になる。
八神が門を開いて、その先のドアに鍵をさして開いた。
そして、俺を見て小さく笑った。
「蹴人、どうぞ上がって。」
八神に部屋に入るように促された。
警戒する必要がある事は分かっている。
でも、八神の行動があまりにも自然で調子が狂った。
「…お邪魔します。」
片親だから…
昔から母ちゃんがそう言われるのが許せなかった。
母ちゃんの躾はもちろん厳しかったけど、俺も誰にも文句言われない程度にはやってきたつもりだ。
例え、八神の部屋に上がる時もそれは変わらない。
玄関に入ると靴を揃えて上がった。
片親云々は置いておくとして、これくらいはできて当然だと思う。
一般常識というやつだ。
八神がスリッパを履いて、もう一つを俺の前に置いた。
俺はそれを履いてマンションにしては少し長めの廊下を歩いた。
八神が一番奥にある部屋のドアを開いた。
それに続いて部屋に入った。
一番奥という事は、多分リビングだと思う。
八神が電気を付けると、そこは無駄に広い空間だった。
だだっ広い部屋には必要最低限の家具しかない。
生活感も全くないと言っていい。
最上階だからかカーテンも何もない開放的な空間だ。
「…」
これだけ広いと身の置き場に困る。
俺は入り口から一歩も進めずに居た。
落ち着かない…
「蹴人、ソファーに座って待っていて。」
「分かった。」
言われた通りソファーに座った。
一人で座るにはデカすぎる黒皮のソファーだ。
一際目立つソファーは、殺風景なリビングで圧倒的な存在感を放っていた。
座ってみると身体にフィットして、凄くリラックスできそうだった。
「蹴人、何か飲むかい?」
「あぁ。」
キッチンから八神が声をかけてきて、冷蔵庫を開けた。
流行りのアイランドキッチンというやつだ。
ソファーから八神の動きがよく見える。
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