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第3話

それからというもの、新見君は頻繁に会社に訪れるようになった。 新見君なりに気を遣ってくれているのだろう。 ある程度仕事が片付く時間帯にやってくる。 気遣いは有難いのだけれど、困った事が一点ある。 「ぁ、壱矢さッ…ん…ダメ、八神さん…いるからぁ…ッ…」 「随分と、…余裕ですね、颯斗君…」 「ぁ…ッ…ダメ…そんなとこで喋っちゃ…んン…八神さ、に…聞こえちゃ…ぅ」 社内でこのような行為は控えてもらいたいものだ。 破廉恥極まりない… 「…大丈夫ですよ。その可愛い声を、我慢できるならば…の話ですけれどね…」 「あッぁ…ムリ…ッ…んぅ…いち、さ…も、イっちゃ…ぅ…」 その声やあからさまな物音にあてられる事はないけれど、集中ができずにあと少しで終わる筈の仕事を持ち帰らなくてはならなくなるという事に深々と溜息をついた。 ーーーーー 新見君と出会って、三ヶ月程の月日が経過し、大分打ち解けてきた頃の事だ。 折戸の家に呼ばれ、三人で夕食を摂る事になった。 「そういやさ、八神さんは恋人とかいないのか?」 会話も砕けたものが増えてきたような気がする。 折戸の恋人とこのように会話を楽しんだり、食事を共にする日が来るとは… 恋人との関係が長続きする事がないのだから当然の事だ。 大体、二週間~一ヶ月程度で別れてしまう。 けれど、今回は三ヶ月も続いているのだ。 願わくば、永遠に二人の関係が続いてほしい… そのように祈りながら、三人で過ごす時間を楽しんでいた。 「恋人?…そうだね、いないけれど。」 恋人と呼べる存在の女性は何人か居た。 どの女性とも、三年近くの関係があったけれど、結婚を考えるまでには至らなかった。 結婚を濁した途端に相手が冷めてしまうケースが多かったようにも思える。 好きだと迫られれば余程の事がない限り交際はするけれど、自ら欲しいと望んだ事はない。 俺は臆病なのだ。 断って相手を傷つける事が怖い。 そのようにして恋人という関係になったとしても、付き合いが長くなれば情が芽生える。 その感情を愛情と呼べるのかどうかという点は別として、決して無感情ではなかった。 情で成り立っている関係上、当然セックスも淡白なものになる。 相手が俺に愛情を求めているのだとすれば、そのようなセックスに満足できる筈もない。 その事も、相手が冷める要因の一つであったに違いない。 「まじか!?超意外!!」 「そうかい?」 「そうだよ!八神さんみたいなイケメン、よくほっとけるよな、世の男たちは!!」 新見君の中では、俺の恋愛対象は男性という事になっているらしく、思わず苦笑した。

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